2006年08月01日 Tue

これはひどい【日記】

生活のリズムがひどすぎるのです。思わず目を細めて「これはひどい」と言いそうなほどにひどい。

「うっ、これは‥‥‥うっぷ!」
「おいおい、現場荒らすなよ新入り。吐くなら外いってやれ」
「す、すみません。ハーハー」

という、ベテラン刑事と新入りが殺人事件の現場をみたときのような、そんなひどさなんですよ。なんか変な例えになったけれど。


まず、寝るのがだいたい午前4時。場合によっちゃあ5時6時になったりする。これはもはや深夜というより早朝のレベルになってしまってるんですよ。


夜、部屋でネットをやったりネットをやったり爪を切ったりネットをやったりしてるうちにも、養豚場に出荷される豚を見る冷血な女主人のような冷たさで時は進んでゆきます。おもしろいサイトやブログを発見して夢中になり、それで時が経つのを忘れる、というのならまだ救いようがあるのですが、自分のブログとmixiを往復してるだけで何時間も過ぎてしまったときなんてシャレにならない。どんだけナルシストだ。


そうやって僕の夜は更けてゆくんですが、夜中はまだいいんですよ。12時や1時なんてまだまだ序の口で、2時3時がいちばんいい。その時間になると、なんか頭がいい感じでキマってきて、ひょっとして自分天才じゃね? みたいな変なテンションになれる。なんていうか、薬要らずのトリップを楽しむことができる。


けど、問題は4時を過ぎてからですよ。僕の平和をぶちこわすものどもが大挙して押し寄せてくるのです。


まず新聞配達のバイクの音。あれ、最低だね。あいつら、なんであんな夜明け前のバカみたいな時間に新聞なんか配るんだろうな。ほんと理解できない。朝刊のくせに4時とかに配りますからね。そんなもんぜんぜん朝やないやん。むしろ深夜刊じゃねぇか。


あと、鳥ですよ。あれも最低。あいつら、なんであんな夜明け前のバカみたいな時間にピーチチチチチッチッチ、チュンチュンとか鳴くんだろうな。理解しきれない。鳥の気持ちが分からない。しかもうちのベランダまできて、いつまで寝ているんだと僕をバカにするかのように、これ見よがしに鳴きますからね。


そして電車の音。これはもうある種、死刑判決に近いものがある。始発電車が出てるってことは、その日の社会生活がはじまったことを意味しますからね。学生や社会人が睡眠を取って起きて、また新しい一日をはじめようとしてるってことですからね。そんな中、きのうを引きずりつつパソコンに向かう自分。死にたい。


そんな生活が数日続いていたのですが、きょうは午後2時から、ある説明会が大学で行われたのですよ。午後2時から。まあ、いくら僕の生活のリズムが廃人よろしくで狂った果実のように狂っているとは言え、午後2時なら余裕です。大学のキャンパスは部屋から歩いて15分ほど。うん、1時に起きても間に合う。


それできょうの朝、いつものように自然とベッドで目が覚めましてね、枕元の携帯を掴んで見てみたら13時50分ですよ。どこをどう見ても13時50分、何回見ても13時50分なんですよ。そこで飛び起きました。


いつもならどんなに遅刻しそうでもシャワーだけは浴びるのだけれど、きょうはそれもなし。ばしゃっと顔だけ水で洗って済ませました。その際、洗面所の電源をつけようと思ったら一瞬電気が明るく光って消え突然の死を迎えたんですが、そんなのかまっていられない。ヒゲも二日剃ってなくてひどいことになってるし、前日はシャワーを浴びてないからちょっと頭と体が痒いのだけれど、そんなのもかまっていられない。目覚めて5分で玄関を飛び出していました。


結局、説明会が行われている教室に到着したのが2時05分。少しは遅れたけれども、起きて15分で部屋から大学の教室へいけるということが驚きでした。しかしその際に寝癖そのままで目ヤニとかついてて無精ヒゲを伸ばしたどっかの新興宗教の教祖みたいな姿を他の人々に見られたのは痛かった。たぶん、僕の姿をみた人々はこう思っただろう、「これはひどい」と。
posted by グレエ at 23:14 | Comment(2) | TrackBack(0) | edit


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2006年08月02日 Wed

帰ろう【日記】

実家に帰らさせて頂きます。


暇すぎる。暇すぎて観てもいない映画のレビューを10,000字以上書いたりしてる。これはもう、ちょっとした病気ではなかろうか?


あまりに暇なんで、きょうは一日だけのアルバイトをしてきたんですよ。大学で言語学だか英語学だかわかりませんが、そういうのを研究している人が募集していた仕事で、簡単な英文を朗読してサンプルとして録音する、というものでした。それで、英文を180個読んだり、「この日本語を英語に訳して発音してください」というフェイントをくらって、さいきんドイツ語ばかりやっていたために英語の文法を忘れてて三人称のあとの動詞に s をつけるのを忘れたりして大いに狼狽したりしつつ、その仕事をしてきました。


午後3時開始で、その作業は4時間程度かかると言われていましたから、これで夜まで時間が潰せるな、と思ったらなんと1時間半で終了ですよ。4時間とかいうから、てっきり1,000個ぐらいの英文を読まされるのかと思ったら230個で「お疲れさまでした。もう帰って頂いてけっこうですよ」ですからね。うむ、たいして暇つぶしになっとらんわ。


ってことで、あと数日したら実家に帰ろうかと思います。どうせ実家に帰っても暇になることは目に見えていますが、実家に帰るとただでご飯が食べられる、テレビを観ることができる、猫と戯れることができる、祖母に小遣いがもらえるかもしれない、など特典が盛りだくさんですので帰ろうと思います。



ちなみに、現在、帰省中に自動更新するための記事、つまり冒頭でいった映画のレビューを書いているんですが、それが予想以上に長くなりすぎて若干後悔しております。ここまでくると辞めるに辞めれねぇ。行くも千里、戻るも千里といった状態です。
posted by グレエ at 19:34 | Comment(4) | TrackBack(0) | edit


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2006年08月04日 Fri

部屋探し【日記】

「え、まだ探してないの?」
「今頃探しはじめるの?」
「おれなんかもう、先月に決めたよ」
「今の時期じゃいい部屋残ってないよ」
「遅すぎ。死ね」


ヘコむ。ほんとヘコむ。


僕は来年、大学の3回生になりまして、そうすると現在の辺境の地から京都市内のキャンパスへと晴れて移れるようになるのです。文系の学部では、1、2年はここの田舎のキャンパスに強制収容され、3、4年は市内のキャンパスで京都ライフを謳歌できるという仕組みになっているのです。うん、これ言ったら確実に大学を特定されるのだけれど、説明しないと話が先に進まない。


で、そうすると来年は引っ越ししなければならず、部屋を新たに探さなきゃいけないんですよ。それで、「そろそろ探そうかなぁ」と思いはじめたころに言われたのが上記の言葉。なんか、他の人は僕に内緒でさっさと部屋探しをはじめていた、っていうかむしろもう終了していたようで、完全に取り残される形になっていました。イジメか?


いやいや、おかしいじゃない。なんでみんなそんな早いの? まだあと半年以上先の話だよ? 来年の春の話だよ? 来年のことを言うと鬼が笑うって言うじゃない? と、疑問と憎しみの感情を抱いたのは僕だけだったようで、どうやらこの時期には決めているのが普通らしいです。


思えば1年と数ヶ月前、地元からこちらへ引っ越ししてくるときの部屋探しもかなり遅くなってからでした。それこそ3月の後半、20日も過ぎてあと10日程度で入学式という時期、ようやく僕は部屋探しをはじめたのでした。入試会場でもらった部屋探しのパンフレットをみて適当に物件を選び、次の日に夜行バスで京都へきて部屋をみて決めるという荒技を決行したのでした。2年住む部屋を2日で決めるとか、ちょっとおかしいんじゃないか、と思いつつ。


そんな過ちは2度と繰り返してはならん、ということで、きのう、ようやく重い腰をあげて不動産屋へいってきました。


まず、いつぞやにポストに突っ込まれていたパンフレットをぱらぱらとめくり、いい感じの物件をピックアップ、まあ、どうせそういうところはもう予約済みで、「ここがいいんですけど」とか言ったら「遅すぎるよハゲ」とか言われるだろうと思いつつもピックアップしておきました。


不動産屋に入ると20代後半くらいの大川さんという男の人が出てきて対応してくれました。

「すみません、部屋を探しているんですけど」
「たとえばどの部屋がいいとかありますか?」

どうせもう空いてる部屋なんかないよな、と思いつつ希望の物件を告げる僕。

「あの、このマンションとか、いいかなと思ってるんですけど、もう空いてないですよね」
「そこですか。空いてますよ」

え、空いてるんですか?


パンフレットのさいしょの方に大きく取り上げられていた物件のくせに、いかにも一押し人気物件、って感じで載ってるくせに「空いてますよ」ですからね。「今の時期じゃいい部屋残ってないよ」とかいう奴らの悪魔のささやきはいったいなんだったんだ。


その後も2つほど候補にあげていた物件を言ってみたんですが、どっちも空き部屋有りでした。いやいや、「遅すぎ。死ね」とかいう奴らの悪魔のささやきはいったいなんだったんだ。お前が死ね。


ちなみに、大川さんと部屋探しの相談をしているあいだ、他の席では別の人が相談をしていました。それは両親とその娘の3人で、たぶん娘は僕とおなじように来年3年生になって引っ越しをするのだと思うんですが、はっきり言ってめちゃめちゃかわいかった。絶世の美女だった。なんていうか、肌が雪のように白くて髪は黒猫の毛並みのようにつやつやとしてうつくしく、その瞳はきれいなものしか見たことがないというくらいに輝いていました。この歳で両親とともに部屋探しにくるくらいですから、おそらく箱入り娘だと思われますし、何より雰囲気がほんと、お嬢様、って感じなのな。「美しい」と言われる女性はけっこうごろごろいますけど、もうそんなのお話にならない。あの子と比べたらもう、世の中にはブスばっか。ブスしかいない。今まで「美しい」「かわいい」「きれい」といった言葉を安易に使いすぎていたのを後悔した。本当に「美しい」っていうのはこういう人のことを言うんだな、って気づかされたもの。性の低年齢化が進み、純粋さが失われ、ファッションは奇抜になり、薄汚れてチャラチャラした若者ばかりのこの腐った平成の世の中にこんな人がいるなんて。たとえるならそれは、荒野に咲いた一輪の百合の花、土の中に眠るダイヤモンドの原石、狼の群れのなかの一匹のウサギ、そんな感じだった。お父さんなんか、だっさいポロシャツ着てたけど「娘には指一本触らせないぞ」っていう騎士のような禍々しいオーラを発していたからな。たぶん僕がその子に声をかけたりしてたら、そのお父さんに殺されてたと思う。ああ、でも、そんな純白のシルクのようなその子と恋人になりたい。手をつないで京都御所を歩きたい。お父さんの目の届かないところへいって、彼女の唇を奪いたい。何も知らない彼女という純白の画用紙に、僕の絵の具で絵を描きたい!


「じゃ、部屋をみにいきますか」

え、あ、部屋探しか。そうそう、それで、いろいろ候補はあったのですが、結局途中でめんどくさくなって、さいしょに告げた3つの中から2つにしぼりましてね、その物件を大川さんと見に行ってきて、よさそうだった方に決めてしまいました。


立地は京都御所から自転車で15分くらいのところで、家賃は4万数千円というお手頃価格。壁がコンクリートむき出しというおしゃれなデザイナーズマンションです。さらに無料で光回線接続のネット使い放題。どうですかこの物件? いいと思いません? あ、どうでもいいですか。すみません。



ということで、気づいてみればまたしても2年住む部屋を2日で決めてしまいました。
posted by グレエ at 19:50 | Comment(8) | TrackBack(0) | edit


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2006年08月06日 Sun

ふたりのロッテ 〜再会編〜【フィクション】

この日記がブログ上に出現するころには、僕は実家で猫と戯れて手の甲を傷だらけにしていることだろうと思います。つまり、この日記は予約投稿です。


先日、部屋にテレビもビデオデッキもないのに『ふたりのロッテ』というビデオをTSUTAYAで借りるという大失態を演じてしまいまして、テープはあるのに観れないという、聞くも涙、語るも涙の状態に陥っています。


まあそれでもなんとか方法を見つけて『ふたりのロッテ』は観たいと思っているんですが、ただ観て「おもしろかった」では趣きがございませんので、観る前に内容を予想する、あわよくばレビューする、という荒技を行いたいと思います。


ということで、以下は僕の考えた『ふたりのロッテ』です。本物のストーリーとは一切関係ないので、読むだけ時間の無駄になるだろうと思います。いや、ほんと、時間の無駄になると思います。


ーーーーー

オープニング。ギターの伴奏にあわせてドイツ語の曲が奏でられる。切なくて、どこか幼い頃を思い出させるようなノスタルジックなメロディー。


スクリーンには、曲に併せて次々とセピア色の写真が写される。海辺で犬とはしゃぎ回る女の子に、誕生日ケーキのろうそくを吹き消す女の子。どれも幸せいっぱいといった表情だ。そして、もっとも特徴的なのは、どの写真にも、仲の良さそうな黒髪の女の子と金髪の女の子のふたりが映っているということ。


音楽とセピア色の写真は、ゆっくりと闇の中にフェードアウトしてゆく。


ジリリリリリーン!

けたたましい電話の音。画面はある汚れたアパートの一室に移る。部屋中に雑誌や脱ぎっぱなしの衣類が散乱し、机の上には飲みかけのウォッカとうず高く積まれた煙草の吸い殻。部屋の隅に置かれたベッドには黒髪の女が下着姿で寝ている。

ジリリリリリーン!

「んんん‥‥‥。もう、うるさいなぁ」

二日酔いでガンガンする頭を抱えながら、女はからだを半分だけ起こして乱暴に受話器を取る。

「もう、誰よこんな朝早くにしつこく電話してくるのは!」
「しつこくて申し訳なかったね、私はきみが勤めているレストランのオーナー、シュミットという者だが」

受話器の向こうから皮肉っぽく響く聞き慣れた声。ついさっきまで威勢のよかった女の顔が青ざめる。机の上に置かれた時計を見ると、針はすでに午後1時を指していた。

「さっさと出勤しろ! ロッテー!」

目を見開いて驚く女性、そう、この物語の主人公のひとり、ロッテである。オーナーの一喝の次の場面では、自転車に乗って大急ぎでベルリンの街を駆け抜けるロッテの姿をバックに、監督・脚本・音楽・俳優の名が白いフォントで表示されては消えてゆく。音楽は冒頭のそれとは打って変わり、アップテンポなロックである。


余談だけれども、この時に映し出されるベルリンの街並が息をのむほどに美しい。歴史ある大聖堂や博物館と、近代的で生活感あふれるお店やカフェが絶妙にマッチし、一つの街を形成している。そうして、そこを一陣の風のように走り抜けるロッテ。


「馬鹿者! 今月に入ってもうこれで3回目だぞ! どういうつもりなんだ!」

息を切らして職場のレストランに到着したロッテに、オーナーは容赦なく叱りつける。

「夜は男といるから、なかなか眠れないのかな?」
「いえ、夜はひとりで寝てます。すみません。もう遅刻はしません」

オーナーのいやらしい嫌味にも反論できず、うつむくロッテ。

「次に遅刻するようなことがあれば即刻クビだ。分かったらさっさと着替えて仕事をはじめろ」

ロッテは5ヶ月前に知り合いの紹介でこの小さなレストランで働きはじめた。5ヶ月、これまでほとんどの仕事を一月と続けられずにクビになってきたこらえ性のないロッテにとって、これはよく続いた方であった。


寝癖で毛先がはねたまま客の注文を取ったり料理を運んだりするロッテ。画面が切り替わり、カメラはガラス越しに彼女の姿を道路から撮影するというアングルに切り替わる。すると、レストランの向かい側の歩道を、まぶしいばかりの笑顔をした大学生の男女が通りかかる。

「ねぇグロース、どこか遊びに連れて行ってよ」
「またかい? 先週もディスコに行ったじゃないか。少しは大学生らしく勉強しなよ」

そう言って金髪の女の脇腹を教科書の角でつつくグロース。笑いながらグロースにバッグをぶつける女。

「ねぇいいじゃないの。どこかいきましょうよ!」
「わかったわかった。じゃあ明日はとっておきの場所へ連れて行ってあげるよ」
「どこへ連れて行ってくれるの?」
「それは明日になってからのお楽しみ。じゃ、また!」
「またね」

大学の講義が終わって、別れ別れに家路へつくふたりの男女。その女の方が、この映画のもう一人の主人公、ロッテである。




場面は変わり、ベルリンの夜景が映し出される。街灯に照らされた夜の街並もまた美しい。余談であるが、宮崎駿はこの映画を見終わったあと、こう語ったという。

「この映画には主人公が3人いる。ふたりのロッテと、そしてベルリンの街だ」

ゴミ箱をひっくり返したような部屋でやけ酒を飲むロッテ。不機嫌な様子がありありと表情にあらわれている。

「ちくしょう! こんな仕事、こっちから辞めてやる!」

ひとりで荒れるロッテ。彼女の胸の中に、さまざまな人に言われた、あるいは噂された言葉がフラッシュバックする。

「飽きっぽい子ね」
「親の顔が見てみたいわ」
「どういう育ち方をしたら、あんな下品な人間になるのかしら」
「愛を知らない人なのね」

シーツを涙で濡らしながら、やがてロッテは眠り込んでしまうのだった。


一方、ロッテが住んでいたぼろアパートの向かい側には、家賃が軽く3倍はしそうな高級マンションが建っており、その一室にもうひとりのロッテの姿があった。髪を一本に結って、机に向かって法律の勉強をするロッテ。彼女は大学で法律を学んでいた。

「きっと、お父さんのような立派な弁護士になってみせるわ!」

法学のテキストを開いてペンを走らせるロッテの目には希望があふれていた。


おなじ階、向かいの建物、わずか数十メートルの空間を隔てて生活するふたりのロッテ。彼女たちは、昔の親友がこんなに近くにいることに、まだ気がついていない。



ここで唐突に場面が切り替わり、回想シーンになる。ベルリンの夜から、ドイツ南部の村カルフ。川のせせらぎが聞こえる郊外のお花畑に、ふたりの小さな女の子がいる。幼き日の、ふたりのロッテである。片方のロッテが、言いづらそうに切り出す。

「あたし、実はね、あの‥‥‥」
「どうしたの?」
「あのね、お父さんの仕事の都合で、引っ越すことになったの」
「えっ!」

驚きを隠せないロッテ。

「誰にも言っちゃだめって言われたけど、もうきょうの夜にケルンの街にいくことになってるんだ」
「じゃあ、あたしたち、もうこれまでみたいに毎日遊べないの?」
「うん」

このカルフの村で生まれ育ち、いつでもいっしょだったロッテとロッテ。まさか、そんな当たり前の日常が、ぷっつりと糸が切れるように終わってしまうなんて。彼女たちには、その現実が理解できなかった。

「嘘嘘! 明日もあさっても、ずっといっしょにいようねって言ったじゃない!」
「ごめんね、でもあたしだけここに残るわけにはいかないの」

すると、悲しそうな顔でつぶやくロッテを残し、もうひとりのロッテはどこかへ走り去ってしまった。


「ロッテ! 早くするんだ! 早く車に乗り込め!」

家財道具を詰め込んで夜逃げを決行するロッテの一家。10年前に自営業ではじめた店舗が経営不信に陥ったため、一家三人で夜逃げを余儀なくされたのである。

「ロッテ! さあ早く!」

あんなに仲のよかった親友のロッテ、自分とおなじ名前のロッテ、その彼女と喧嘩した状態で別れねばならないということが、幼いながらに、彼女の胸を痛ませた。


がらんとした店舗を残して走り去ってゆく一台の車。夜の街灯に照らされたカルフの街並が美しい。余談だが、宮崎駿はこの映画を見終わったあと、こう語ったという。

「ロッテ萌え!」




再び場面は現在のベルリンへ戻る。レストランで働くロッテ。そこへよれよれの服を着た無精髭の青年が入店してくる。

「一名様ですか?」
「はい」

青年を席へ案内するロッテ。しかしその態度はどこか冷たくぶっきらぼうだ。

「メニューを」
「はい、どうぞ」

ぶすっとした顔でメニューを差し出すロッテ。

「えっと、カツレツとパンとコーヒーを」
「はい、かしこまりました」
「それと、きみをデートに誘いたいんだけれど」

注文を書き留めるメモから顔を上げるロッテ。

「もういい加減にしてよ。何度も言ってるでしょう? あたしはちゃんとした彼氏がいるし、それに、あなたにはこれっぽちも興味ないの」
「そんなに冷たく言うなよ。おれはこんなにきみのことが好きなのに」
「キモッ! マジでキモッ!」

しかめ面でそう言い捨てると、ロッテは厨房の中へ消えて行った。男はこのレストランの常連客で、ロッテを口説こうと毎日のようにやってくる男。ロッテはそれを断り続けている。ちなみにさっきの会話は、ドイツ語では何と言っていたのか聞き取れなかったけれど、若者言葉である「キモい」という単語に訳したあたり、訳者の斬新さが感じられておもしろい。


まとわりつくような男の視線。それを振り払うように、ロッテはきょうも大忙しで働き続ける。




ベルリン大学キャンパス。さわやかな青空の下、そよ風に金色の髪をなびかせて、もう一人のロッテがベンチに座っている。ただ人を待っているだけの場面なのに、それが10秒ほど映し出される。鼻にまとわりつく髪を振り払ったり、時計で時間を確認するロッテ。ロッテ役を演ずる女優ハイケの美しさが存分に引き出され、観客を魅了する。余談だが、宮崎駿監督はこの映画を見終わったあと、こう語ったという。

「ロッテたんハァハァ」

そこへ登場する恰幅のいい青年。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に出てくる不良のリーダーに似た青年、先日ロッテとふたりで歩いていた恋人のグロースである。

「ごめん、遅くなって」
「ううん。私もさっき来たばかりよ」
「もうきょうも講義はぜんぶ終わったんだよな?」
「ええ」
「じゃあちょっと付き合ってほしいとこがあるんだ」

そうして、連れ立ってキャンパスの外へ歩いてゆくふたり。レンガ造りの建物や整備された樹木が立ち並ぶキャンパスが美しい。若々しい大学生の男女が闊歩する大学のキャンパス。余談だが、宮崎駿監督はこの映画を見終わったあと、こう語ったという。

「大学生の頃に戻りてー!」


グロースがロッテを引張っていったのは細い路地を入ったところにある小さなお店だった。看板には小さな女の子の絵がポップなタッチで描かれている。ふたりが店の前までくると、店内から大きな紙袋を両手に抱えた小太りな男が満足気な顔をして出てくるところだった。鼻息のあらいその男を珍しそうに見つめ、ロッテが言う。

「ここって何のお店なの?」
「ま、中に入れば分かるさ」

興奮が抑えられないといった勢いで入店するグロースと、何がなんだかわからず不安な表情のロッテ。


店内には所狭しとフィギュアやプラモデル、あるいは同人誌などが陳列されている。1階は主に小さめのフィギュアやプラモデル、2階は雑誌やCD、DVDが中心に取り揃えてあった。しかしどうも様子がおかしい。商品はどれも、いわゆる萌え系のものばかり。人ひとりがやっと通れるような狭い階段の壁には、何十枚ものポスターがべたべたと貼られている。


まるで赤い布に突進する牛のごとき猛々しさで3階まで一気に上がってゆくグロースと、わけも分からず彼についてゆくロッテ。3階に到着すると、そこには等身大のフィギュアや衣装などが飾られてあった。明らかに異様な空気に満ちた空間である。さらに店の奥へと進むグロース。

「ねぇなんなの? なんなのよ?」

何も語らないグロースにしびれを切らしたロッテが詰め寄る。そうして、人が着るための衣装がマネキンに着せられて飾られているショーウィンドウの前でグロースが立ち止まる。

「この服を、ロッテに着てほしいんだ。ぐふふ」

不気味な笑みを浮かべるグロース。彼は根っからのオタク、というより変態だった。僕がこの映画をみたときは、上映中にも関わらず、観客席から一斉に「キモッ!」という声が聞こえました。そのくらい変態っぽい顔だった。

「前々からロッテた‥‥‥いや、ロッテにこのメイド服を着てほしいと思ってたんだけど、やっぱり実際に見てもらわないと好みもサイズも分からないでしょ?」

驚きで言葉を失うロッテ。

「ねぇねぇ、どうかな? この白のレースがついるのもいいんだけど、ピンクも捨てがたいよね。あ、でもこのベージュのも清純な感じで悪くないし。ロッテたん、どう思う?」

大きく息を吸い込むロッテ。

「こんなもん着るわけねぇだろ! このブタムシがっ!」

大声でそう言い放ち、ロッテは逃げるようにその場をあとにする。階段を転げるように駆け下り、途中小太りの青年を3、4人ほど突き飛ばした。それを必死で追うグロース。

「ま、待ってー! 待ってよロッテたーん!」

このときのグロースは情けなくて顔が不細工で、もう醜悪そのもの。迫真の演技である。ある有名批評家をして「あの俳優はあのシーンだけで映画史に永遠に残るであろう」と言わしめたほどだ。余談だが、宮崎駿監督は感情移入しすぎたせいか、このシーンで狂ったように号泣し、観客全員から白い目で見られていました。




所変わって、あるバー。おしゃれなジャズが流れる、大人の隠れ家といった雰囲気の店内。喪黒福造が現れてもまったくふしぎではない。カウンターには色とりどりのお酒のボトルが並べられ、無数のグラスが少し暗めの照明をきらきらと反射している。


画面にはカウンター席が映し出され、中央の少し右の席に、黒髪の女性がカメラに背中を向けて座っているという構図。カウンターではタキシードを着た20代後半くらいの青年がシェーカーを振ってカクテルをつくっている。

「もっと強いのちょうだい」

グラスを差し出す、ぼさぼさの黒髪をした女性。ロッテである。頬が紅潮し、目が据わっている。

「もうやめておいたら? 飲み過ぎだよ」

彼女の体を気遣うアンドレアス。ロッテはこのバーの常連客であり、アンドレアスはロッテの恋人である。嫌なことがあると、必ずロッテはここのカウンターに陣取ってアンドレアスを相手に延々をグチるのだ。

「いいの。もうどうなってもいいのよ。あんなヒヒおやじと怪しいストーカー男のいる職場なんてもう真っ平だわ。ぜったい辞めてやるんだから! うえーん!」

テーブルに顔を埋めて泣き出すロッテ。アンドレアスもやれやれといった表情で彼女を見つめグラスを拭いている。


そこへ金髪の女性がふらふらと現れる。画面に映し出されたカウンターの左側、中央にいるアンドレアスを軸に、ちょうどロッテと線対称の席に座る女性、ロッテである。

「お水」

はじめて来店してぶっきらぼうに言い放つロッテ。アンドレアスはそんな彼女をいぶかしそうに見つめながらグラスに入った水を指し出す。ロッテはグラスを傾けて水を一口飲み、遠くを見つめるような目をしてじっと固まってしまった。

「う、うう。ぐすん‥‥‥」

相変わらず泣き続ける黒髪のロッテ。アンドレアスが困ったなぁといった表情で語りかける。

「もう夜も遅いんだから、そろそろ帰ったら? ロッテ」

ぼーっとしていたロッテが、瞬きを一つ。急に自分の名前が聞こえてきたことに反応したようだ。ゆっくりと右を向いて、さめざめと泣くロッテを見つめる。

「あなたもロッテっていう名前なの?」
「そうよ。あなたもなの?」
「ええ、偶然ね‥‥‥。ちょっと、そっちへ行っていいかしら?」
「どうぞ」

カウンターの左側の席に座っていた金髪のロッテが、もう一人のロッテの隣に移動する。水の入ったグラスの表面についた水滴を指先でいじりながら、ロッテがぽつりと一人言のようにいう。

「男なんて、ろくなもんじゃないわね」
「‥‥‥何かあったの?」

数時間前のグロースとの一件を語るロッテ。そしてその話に静かに耳を傾けるロッテ。同じ名前という偶然、そして悲しみに沈んでいる者同士の同情が、ふたりの心の扉を開いていった。黒髪のロッテも、職場でのセクハラおやじやストーカー男への不満を語った。

「はぁー、何も悩みなんてなかった子どもの頃に戻りたいわ」
「そうね、あの頃に‥‥‥。私、小さい頃、あたしとおなじ名前の友達がいたのよ。そう、あなたのような黒髪の」
「あたしにも、小さい頃、おなじ名前であなたのようなブロンドの髪をした友達がいたわ‥‥‥」

じっと見つめ合うふたり。数秒の沈黙の後に、ふたりが同時に叫ぶ。

「ロッテ!」

幼なじみの、実に15年ぶりの再会だった。今まで沈んでいたのが嘘のように、ふたりの顔は歓喜に満ちた。まさか、こんな場所で、こんな形で再会することになるなんて。


いつもいっしょに遊んでいた子ども時代を思い出し、ふたりのテンションはウナギ昇りに高まっていった。金髪のロッテが言う。

「久しぶりに、あたしたちの故郷、カルフに行ってみましょうよ!」
「素敵! もう仕事なんて関係ないわ。あすにでも行きましょう!」
「OK。私も、退屈な大学の講義なんてすっぽかしてやるわ! そうと決まったら、明日いちばんの列車で向かいましょ」

すると、黒髪のロッテが何かを思い出したようで、急に元気がなくなる。

「ごめんなさい。あたし、いまお金がなくて、切符代も払えそうにないの。どうしよう‥‥‥」

考え込むロッテ。目の前には蚊帳の外といった感じでグラスを磨くアンドレアスの姿があった。それを見てロッテが口を開く。

「アンドレアス。先週ローンで買ったっていう車の調子はどう?」
「ああ、絶好調さ。やっぱり車は国産に限るよ。ドイツの自動車は世界一さ!」
「じゃあ、600kmくらいは軽く走れるわね」

ここで「えっ?」って感じのアンドレアスの間抜け面がアップで映し出され、バーの風景はフェードアウト。

つづく

ーーーーー
ふたりのロッテとアンドレアスの珍道中はどうなるのか!? 3人の恋模様、そしてふたりの友情は!? カルフではいったいどんな事件が待ち受けているのか!? ロッテは、アンドレアスは、宮崎監督は、そしてダチョウ倶楽部の運命やいかに!! っていうか、ここまで読んだ人がいるのかどうかが甚だ疑問だ!!


次回、感動の完結編は8月8日午後8時をチェケラッ!
posted by グレエ at 08:00 | Comment(7) | TrackBack(0) | edit


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2006年08月08日 Tue

ふたりのロッテ 〜完結編〜【フィクション】

前回、ベルリンのバーで偶然再会したふたりのロッテ。都会での生活に疲れたふたりは、黒髪のロッテの恋人、アンドレアスを巻き込んで故郷のカルフにゆくことにした。いったい3人の旅はどうなってしまうのか!? 最後に待ち受ける壮絶な結末とは!? 果たして最後まで読む人がいるのか!? 今、運命の歯車が狂いはじめる‥‥‥。


ーーーーー


青い空、白い雲。吹き抜ける風と、風にそよぐ森の樹々。広大な畑は緑色の海のようだ。そして、その真ん中に一直線に敷かれたアウトバーン。ナチス時代にヒトラーの政策によって建設された、制限速度なしのドイツの高速道路である。そこを赤い車が走り抜ける。運転席にはアンドレアス、後ろの席にはふたりのロッテの姿があった。


この前のシーンまではベルリンの都会の風景ばかりで、それはそれで美しかったのだけれど、ここからの田舎の映像はまた一気に趣きが変わっておもしろい。都市部から田舎へ。それはまるで、大人になったふたりのロッテの心が、幼少の頃の純粋なものに戻ってゆく、その変化を表すかのようである。余談だが、宮崎駿監督はこの映画を見終わったあと、こう語ったという。

「ロッテたんのメイド服姿が見たかった」

まだ言うか。


宮崎監督がしくしくと泣いているあいだにも、スクリーンには走行する車内から撮影したドイツの田舎の風景が映し出される。ここからの『ふたりのロッテ』は、さながら短調の曲が長調へと転調するかのごとく、明るいロードムービーへと展開する。


風と太陽の光を、両手をいっぱいに広げて浴びる黒髪のロッテ。その顔にはもう、薄暗い部屋とレストランを往復していた暗い表情はない。ロッテは自由と開放の喜びに酔いしれていた。


正午、道の途中にあるレストランに立ち寄る3人。ふたりのロッテはすっかり旧交を温めて打ち解けている。男一人、運転手としてなかば無理矢理に連れてこられたアンドレアスはやれやれといった表情で首を回している。

「お嬢さん、少しは運転かわってくれよ」
「あら、大切な彼女様に運転させるつもりなの? それでも男?」

まるで少女のように笑ってアンドレアスをからかう黒髪のロッテ。


レストラン、というよりファーストフード店に近いそこでカツレツやソーセージを食す3人。ちなみに、ドイツはソーセージの本場で、このシーンで彼女らが食べているソーセージも実においしそうでした。ああ、ドイツでソーセージ食べたい。

「アンドレアス、あとどれくらいで着きそう?」
「いま三分の一くらい来たところだから、今夜はモーテルに一泊して、明日の昼ぐらいには到着するよ」
「OK」
「でもロッテ、僕そろそろ運転し過ぎで肩が疲れてきたよ」
「‥‥‥ねぇ、アンドレアスも疲れているから、次はしばらく私が運転するわ」と金髪のロッテが気を遣う。
「そんな、それは悪いわよ。それならあたしが運転していくわ」
「いや、じゃあおれが」
「どうぞどうぞ!」とふたりのロッテ。

ダチョウ倶楽部のギャグはドイツでも大人気。ドイツでこの映画の試写会が行われたときはダチョウ倶楽部もゲストとして招かれ、国賓クラスの待遇を受けたそうです。


お腹もいっぱいになり、3人は再びアンドレアスの運転で南へと向かう。ドイツ北部のベルリンから、南西部のカルフの街まで、全国をほぼ縦断する形になる。残り三分の二ほどの道のりだ。




場面は変わり、夜。国道沿いのモーテル。3人の乗る赤い車が、ヘッドライトで地面を照らしながら駐車場へ入る。

「うああっ、疲れた。お尻が痛いよ。はやくシャワーを浴びてビールを飲みたいよ」

モーテルの中へ入る3人。カウンターで白髪で小太りの男が無愛想に出迎える。

「いらっしゃい。3人ですね」
「ああ」
「そちらの女性ふたりと男性一名様で、二部屋でよろしいですか?」
「ええ」

それぞれキーを手渡され、部屋へゆく。そのとき、金髪のロッテが自分のハンドバッグを車内に忘れてきたことに気づいた。

「ごめんなさい。ちょっと取ってくるわね」

ロッテはモーテルの裏手にある駐車場へ歩いてゆく。ああ、星がきれい。ベルリンは夜景が美しいけれど、こんな星空は見られない。それに、夜の空気の匂いがどこか懐かしい。夜の田舎の雰囲気を味わいながら車のところまでゆくと、車のドアに寄りかかりながら煙草を吸うアンドレアスの姿があった。さっきまではずっとロッテがいっしょだったから気にならなかったけれど、彼女とアンドレアスは前日会ったばかりの間柄。ロッテは少し緊張した。

「きょうはごめんなさいね、こんなに長距離を運転させてしまって。すごく疲れているでしょう?」
「そんなこと気にしなくていいよ。僕だって楽しんでいるんだから」

ふーっと吐き出した彼の煙草の煙が、闇の中に広がって消えてゆく。明るいうちはじっくり話すこともできずにいた初対面のふたり。ロッテはバッグを取りにきたことも忘れ、アンドレアスとのおしゃべりに夢中になった。車はドイツ車がいちばんだとか、もう一人のロッテは月に5回はバーにきて泣くとか、はじめてロッテがバーに来たときは上半身裸だったとかいう話をした。3本目の煙草を吸い終わる頃、アンドレアスは車内にあったロッテのバッグに気づいた。

「あれ、あのバッグはドイツんだ?」

そんなウィットに富んだジョークを飛ばすアンドレアスに、ロッテは胸がときめくのを感じた。ちなみに、ドイツでのこの映画の試写会では、このギャグで会場が爆笑の渦に包まれたそうです。

「そうだった、バッグを取りにきたこと、すっかり忘れてた!」
「どうしたのロッテ?」

そこへ現れたのはもう一人のロッテ。忘れ物を取りに行ったきり戻ってこない彼女を心配して様子を見に来たらしい。

「いや、ごめんごめん。つい話し込んじゃって」煙草を靴底でもみ消しながら照れ笑いするアンドレアス。「じゃあまた明日。おやすみ」
「おやすみなさい」

ふたりは部屋へと戻って行った。彼女たちを後ろから見つめるアンドレアスが、あやしい笑みを浮かべながらペロリと唇をなめた。

「あの人、とてもいい人ね」
「うん、おもしろいし、とってもいい人よ」
「あたし、ああいう男の人がいいかも」
「‥‥‥‥‥‥」
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない。おやすみなさい」
「おやすみ」

そうして夜は更けていった。




次の日、再び抜けるような青空が広がった。3人は一路カルフをめざす。運転はもちろんアンドレアスだ。しかしきのうと一つ違う点があるとすれば、それは金髪のロッテの視線。窓の外の流れ行く景色を見ていたつもりなのに、気づくと前を向いてバンドルを握っているアンドレアスの横顔に釘付けになっているのだ。

「道も空いているし、予定通り昼過ぎくらいにはつきそうだ」

場面は変わり、ふたりのロッテの故郷、カルフ。作家ヘルマン・ヘッセの生まれた街として知られるだけの、小さな小さな村である。そこは、彼女たちの思い出の中にある15年前の風景とまったくおなじだった。昔よく水遊びをしたナゴルト川、そこにかかる石造りのニコラウス橋、何もかもがそのままだ。


ここで画面に映し出される映像の美しさは圧巻で、ある有名批評家をして「この映画は役者よりも風景が多くを語っている」と言わしめたほどである。つまり、実際に映像を観ないことにはこの映画の魅力は100分の1も伝わらないのだ。この作品は映像ありきなのである。だから、このレビューがつまらなかったとしてもそれは僕のせいじゃないです。ぜひ本物を観てください。


3人がナゴルト川の河畔へ歩いてゆく。透明な水面を見つめてアンドレアスがつぶやく。

「きれいな川だね」
「そうでしょう? 昔はよく泳いだりしたのよ」
「水着を持ってくればよかったかな」
「あら、そのまま泳げばいいじゃない」
「いや、まさかそれはできないって。おいこら、押すなよ、押すなよ! ぜったい押すなよ! うわっ!」

ザバーン。ふたりのロッテがアンドレアスを川に突き落とした。

「さささささささ寒いっ! お前ら、おれを殺す気かっ!」

豆知識として述べておくと、ドイツでは、「ぜったい押すなよ!」は「押せ」という意味なのである。敢えて背中を押され、水やら熱湯に落とされ、そのリアクションで笑いをとるというダチョウ倶楽部由来の文化がドイツには根付いているのだ。


精一杯のリアクションをとるアンドレアスを放置し、ふたりのロッテはニコラウス礼拝堂へ向かった。小さい頃、日曜日になるとよく両親に連れてこられた場所である。外側から礼拝堂を眺め、ふたりが語り合う。

「あの頃の私たちは、悩みなんてなくて毎日が楽しかったわね」
「そう、あたしたちは都会へ出て、めんどうなことに巻き込まれすぎたのね。あ、そうだ」
「なに?」
「あのときは、ごめんなさい。お別れの言わずに行ってしまって」
「仕方ないわよ。家族の事情だったんだもの」
「また、あの頃のような関係に戻りたいわ。そして、悩みなんてなくて、遅刻もクビも気にしないで、男なんて抜きで、遊び回りたいわね」
「うん」
「おーい、おふたりさん! 置いて行かないでよー!」

びしょ濡れになったアンドレアスが道路を濡らしながら歩いてきた。それを見たロッテたちは涙が出るまで大笑いした。すると、その光景を見かけた通りすがりのおばさんがいぶかしげに話しかけてきた。

「ちょっと、あんたたち。どこから来たの?」

のどかな田舎の村にはありがちだが、地元の人は怪しいよそ者に対しては敏感なのだ。しかし、近づいてくるそのおばさんの顔をみてロッテの表情が驚きに変わった。

「ピナウおばさん! あたし、ロッテです!」
「んん? ロッテ、ロッテじゃないの!」
「お久しぶりです」
「大きくなったわねぇ」
「あ、この男の人はアンドレアス。ベルリンからここまであたしたちを乗せて運転してきてくれたんです」
「はじめまして、ピナウさん」
「わざわざベルリンから‥‥‥それは大変だったでしょう。どう? 今晩はうちに泊まっていきなさいよ」
「でも、いいんですか?」
「歓迎しますよ。どうせ息子も娘もみんな出てっちまって、寂しい思いをしているんだから。今夜はごちそうさせてちょうだい」




夜、静まり返る村の中の一軒家。窓から暖かそうな明かりが漏れる。部屋の中ではテーブルを囲むロッテたち3人。そこへピナウおばさんが腕によりをかけてつくったおでんを台所から運んでくる。

「どうぞ、好きなだけ食べてね」

そうして鍋を蓋を外すと、もうもうと湯気が立ちこめる。

「これは熱そうね、少し待たないと食べられないかもしれないわ」とピナウおばさん。
「大丈夫です。あたし、がんばって食べます!」と無駄にやる気に満ちた声でいう黒髪のロッテ。
「そんな、危ないわよ。だったら私が先に食べるわ」ともう一人のロッテが手を上げる。
「じゃ、じゃあおれが」
「どうぞどうぞ!」

ダチョウ倶楽部のギャグはドイツでも大人気だ。

「はい、どうぞ」とロッテがおでんとアンドレアスの口元に運ぶ。
「アーン‥‥‥熱っ!」とアンドレアス。ロッテが熱々のおでんを唇に押し当てたのだ。

「ごめんなさい。次は気をつけるわ」
「まったく、ちゃんとやってくれよもう!」
「はい、アーン」
「アーン‥‥‥熱ちー!」

こうして、愉快な夜は更けていった。




みなが寝静まった夜中、ロッテが急に目を覚ます。すぐ隣のベッドにはロッテが寝ている。彼女はのどの渇きを覚え、起き上がって台所に水を飲みに行った。すると、窓の外に、月明かりを浴びながら煙草を吸うアンドレアスの姿がある。ロッテは冷蔵庫に入れてあったミネラルウォーターを飲み干したあと、彼のところへいく。

「眠れないの?」
「うわ、びっくりした。いや、枕が変わると眠れない性格で」

遠くに、月明かりを反射するナゴルト川の水面が見え、水の流れてゆく音が聞こえる。

「ねぇロッテ、きみとはなんだか、おととい会ったばかりだという気がしないよ」

じっとロッテの瞳を見つめるアンドレアス、金色に光る彼女の髪を指でかきあげる。ロッテはそれを拒まない。だめだってことは分かっている。アンドレアスは親友の恋人、こんなことが許されるはずはない。しかし、頭では理解できているのに、体は言うことを聞かないのだ。


次の朝、アンドレアスとロッテは何事もなかったかのように目覚め、ピナウさんとロッテにおはようの挨拶をする。

「おっと、煙草を切らしちゃった。ちょっと買ってくるよ」
「じゃ、あたしもいっしょに行ってお水買ってくるわ」
「うん、ふたりともいってらっしゃい」

ロッテはどこか様子のおかしいふたりをいぶかしく思いながら送り出した。ピナウおばさんが言う。

「いいわね、若いって。あなたもいい人見つけなさいよ。ぼやぼやしてたらすぐおばちゃんになっちゃうんだから」
「え」

不安の色を浮かべるロッテ。

「どういうことですか? アンドレアスとあたしは恋人同士なんですよ」
「え、だってきのうの夜‥‥‥」

途中で言葉に詰まるピナウおばさん。そう、おばさんは夜中トイレに起きたとき、窓からキスをするふたりのことを見てしまったのだ。とたんに苦い顔になる。

「どうやら余計なことを言ってしまったみたいね‥‥‥」
「なに、おばさん! きのうの夜、何があったって言うの? 彼とロッテがどうしたのよ!」

取り乱すロッテ。おばさんは自分が見たままを報告した。事情を飲み込むと、ロッテは一人で外へ出て行ってしまった。


それから数十分経ったときのこと、買物へいっていたふたりが車で戻ってきた。おばさんはさっきあったことを洗いざらい話した。

「放っておけば戻ってくるさ。まったく、それくらいのことで大騒ぎしやがって」アンドレアスが冷たく言い放つ。
「何言ってるの! 探しに行かなくちゃ!」

ロッテは弾かれたように玄関の外へ出ていった。

「ロッテー! ロッテー!」

声を大にして、自分とおなじ名前を叫ぶロッテ。村中を探しまわっても一向に見つかる気配がない。ニコラウス橋にも、ナゴルト川のほとりにも、礼拝堂にも‥‥‥。何時間も何時間も歩き回り、足が痛くなってくる。

(いったいどこにいるんだろう? せっく15年ぶりに再会できたのに、また昔みたいに仲のいい友達に戻れると思ったのに、なんで‥‥‥。は!)

そのとき、彼女の頭に、お花畑が広がった。そう、15年前に最後にふたりが会話を交わしたあのお花畑。その瞬間、ロッテは猛然と駆け出した。


記憶の中のそれとまったくおなじように美しいお花畑。そこへ息を切らしたロッテが現れる。お花畑のなかには、パステルカラーの花々にまぎれて、ポツンと、ロッテの黒髪が浮かび上がっている。

「ロッテ」

彼女が振り返る。




ここで突然、シーンはお花畑からピナウさん宅へ移動する。もう日が暮れかかっている。一度は探しにでたピナウもアンドレアスも、すでに家に戻ってきて二人の帰りを待っていた。

ガチャッ。

ドアが開く。ピナウとアンドレアスが視線を向けると、そこには髪はぼさぼさで服を泥だらけに汚したふたりのロッテの姿があった。

「まあ、どうしたのその格好は? 大丈夫だった?」

ピナウさんが狼狽して語りかけるが、ふたりは押し黙ったきり何もしゃべろうとしない。

「とりあえず、もう一晩家に泊まっていきなさい。ほら、ふたりともシャワーを浴びて」

そうしてもう一晩、3人はそこに泊まることになった。しかし昨晩のような楽しさは欠片もなく、夕食の時間にも殺伐とした空気が流れていた。ピナウさんが勤めて明るく振る舞っても、ふたりのロッテは応じようとしない。それにしても、ふたりで帰ってきたというのに、彼女たちは、アンドレアスとしゃべらないどころか、ふたりのあいだでさえ会話しようとしない。いったい彼女たちに何があったのか、ピナウさんとアンドレアスは不思議に思っていた。


次の日、ベルリンを出発して3度目の朝。いつものように、快晴である。しかし、この日の朝は何かが違った。


ベッドからのっそりと起き上がる無精髭のアンドレアス。彼が部屋を出てリビングへゆくと、そこにはテーブルでコーヒーを飲むピナウおばさんがいた。

「あのふたりはまだ起きてないんですか?」
「あのふたりなら、もう先に帰ったよ」
「えっ?」

驚いて窓の外に目をやると、とめてあった愛車が忽然と姿を消している。

(そ、そんな! バカな!)

慌てて部屋へ戻るアンドレアス。机の上に置いておいたはずの鍵がなくなっている。ふたりが寝ていた部屋へ駆け込むと、そこにはふたりの姿も、彼女たちの荷物もきれいさっぱりなくなっていた。青ざめるアンドレアス。




青空を流れる雲の下、運転席と助手席にふたりの姿があった。昨晩の殺伐とした雰囲気が嘘のように、ふたりは和やかである。

「あの男が今頃どんな顔してるか見てみたいわ」
「あははっ! そうね!」

きのうの殺伐とした態度。それはアンドレアスを騙すためのふたりの芝居だったのだ。お花畑で顔をあわせたふたりは、はじめ口論になった。「なんであたしのアンドレアスを」「それは彼の方から‥‥‥」そんな醜い争いをしていたのだけれど、彼女たちは気づいたのだ。せっかく再会できたのに、また仲よしのふたりに戻ったのに、なんでこんなことをしているのだろう、と。そうして、男のことなどどうでもよくなったふたりはあるイタズラの計画を思いついて、それを実行に移したのである。




「ちょっとちょっと、アンドレアスさん。こっちへ」

場面は再びピナウさん宅。ピナウさんがリビングから彼を呼ぶ。ふらふらとそちらへ歩くアンドレアス。

「あのふたりからあなたへって、プレゼントを預かっているんだよ」

そう言って笑みを浮かべながら、真っ赤なパッケージの箱を彼に手渡した。見ると、その箱にはマジックでこう書かれていた。

『あなたの恋人は、これで十分』

お口の恋人、ロッテのチョコレートである。


「聞いてないよォーーー!!」


ダチョウ倶楽部の生んだ名台詞が、カルフの村中に響き渡った。




ラストシーン。ふたりのロッテが乗った車が、地平線の先まで続くアウトバーンを疾走してゆく。どこまでもどこまでも車は走ってゆき、赤い点になり、ついには見えなくなる。それはまるで、ダチョウ倶楽部がいつまでもトリオを続けているように、ふたりの友情もまた永遠に続いてゆくことを暗示しているかのようでした。

おしまい
posted by グレエ at 08:00 | Comment(3) | TrackBack(0) | edit


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2006年08月09日 Wed

伸び猫【モブログ】

060808_1540~01.jpg
猫かわいい。
posted by グレエ at 22:33 | Comment(3) | TrackBack(0) | edit


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2006年08月10日 Thu

今夜宇宙の片隅で【モブログ】

どうも、帰省中のグレエです。


実家に帰ってからは携帯しかネットにつなぐ道具がないため、コメントを返せなくて申し訳ないです。僕は携帯の文字入力は大の苦手なので許してください。


いや、ほんとは夜行バスに乗るまでのてんやわんやだとか、バスの中でのトイレ騒動だとか、こっちで改めて「ふたりのロッテ」を借りようとしたときの悲劇だとか、それこそ毎日怒涛の勢いで更新したいのですが、なにぶん実家のパソコンがフリーズしまくりだったり、家族にブログをやってるのを悟られたくなかったりといった事情があるので書けないのですよ。


あの、ネタがないのに書く、というのもなかなかしんどいですが、ネタがあるのに書けないというのはもっとつらいですね。うん、完全に日記ジャンキー丸出しの発言ですね。


京都に戻るのがおそらく14日あたりになると思うのですが、通常の更新はそれ以降になるだろうと思います。といっても、そのあとすぐドイツに1ヶ月ほど留学してしまうんですが。
posted by グレエ at 01:13 | Comment(5) | TrackBack(0) | edit


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2006年08月14日 Mon

更新再開【日記】

ようやく地元から京都に戻ってきました。


さて、ちょうどリピーターが増え始めた時期に帰省し、ブログをなかば放置するという罰当たりな暴挙に出ていたわけですが、今日からはこの1週間の穴埋めをすべくガシガシと狂ったように更新してゆこうかと思います。まず手始めに、書きためておいた4つの記事をアップしときます。


ちなみに、19日から1ヶ月、ドイツに短期留学してしまうのですが、その間もブログは更新します。ええ、海外からでも更新はしますとも。すごいね。我ながらブロガーの鑑だと思いますよ。まあ、中毒ってだけなんだけれども。


方法としましては、ノートパソコンを持参しまして、これまで通りのペースで日記を書きます。それで、週に1度か2度くらいイソイソと現地のネットカフェに足を運び、USBメモリに保存しておいた日記をアップロードする、というふうにしようかと考えています。日記はおそらくほぼ毎日のペースで書く(日記中毒の症状)と思いますが、アップできるのは週に1度か2度のため、5日ほど更新がなかったと思ったら、いきなり何食わぬ顔で5日分の記事がブログに載っている、あたかも毎日更新してたかのような涼しい顔をして日記が並んでいる、なんてことになるかと思います。



あ、それと、さっき「書きためておいた4つの記事をアップしときます」と書きましたが、この4つの記事にはちょっとわけがありましてね。実は、帰省する前は、ドイツ留学中はずっと予約投稿で済ませようかな、とも思っていたのですよ。それでちょっとストックをつくっていたわけなんですね。しかし帰省中に気が変わってしまったので、これらのストックは不必要になってしまった、というわけです。なので、ここでドサドサッと投下しとこうかと。ま、どうでもいい話ですね。


話は変わりますが、地元から京都まで、バスでなんと9時間かかりました。本来なら7時間で着くはずのところが、渋滞に巻き込まれ9時間。その疲れもあってか、現在体調が優れません。あと、なんか汗の量がものすごい。流れ出すこと滝のごとし。いつもはあまり汗をかかない体質なんですが、このままいったら明日の朝には水たまりになっちゃうんじゃないの? という勢いで発汗しております。ま、どうでもいい話ですね。
posted by グレエ at 21:19 | Comment(4) | TrackBack(0) | edit


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数学の神秘 【昔の話】

僕は数学が大好きだった。


数学、それは一分の隙もない、完璧な論理の世界。そこには感情や情緒なんて介入する余地はなくて、論理の連鎖だけがすべて。現実世界や他の文系科目、あるいは自然科学とも一線を画するこの特殊な学問には一種の美しささえ感じます。現在でこそ文学部に在籍し、数学とは無縁の生活を送っていますが、小学校から高校、浪人時代にいたるまで、僕はこの数学という科目に夢中でした。


いったいどれだけの数学の問題を解いたのかは分かりませんが、その中でも特に思い出深い問題が一つあるのです。それは中学時代に塾の先生から出された、一見簡単そうな面積の問題でした。


中学時代、高校受験を控えていた僕は地元にある小さな個人経営の塾に通っていました。塾といってもふつうの学習塾のように授業があるわけではなく、ただ先生がいる教室で自習をするだけ。分からないところがあったら先生に聞くという、まあ先生付きの自習室のような塾でした。


そこを一人できりもりしていたのが森先生という人で、この人がかなりの変わり者。自衛官、警官、サラリーマン、トラック運転手などという異例の経歴を持つ人だったのですが、やはり生徒に課する問題も一癖あるものばかりでした。その中の一つがさきほど言った面積の問題。下の図の黄色の部分の面積を求めよという問題です。

三日月の図.png


一辺がaの正方形に円が内接し、さらに正方形の一つの角を中心とした半径aの円があり、その大小2つの円によって囲まれている部分を面積を求めよ、というものです。これを僕たち中学生にチャレンジ問題として出題したのです。この問題は求める部分が三日月のような形をしているところから「三日月の問題」と言われ、塾のなかで注目を集めました。その筆頭だったので数学好きの僕でして、常にこの図形を描いた紙切れを持ち歩き、学校や家で眺めては連日取り組んでいました。


ぱっと見た感じは、簡単な図形の組み合わせですし、すぐに答えが出そうなものなのですが、これがなかなか分からない。どんなにがんばってもわからない。出題から一週間あまり経った頃でしょうか、塾の生徒もみな諦め、僕もとうとうギブアップ。先生に答えを聞きに行きました。すると森先生、うっすらと笑みを浮かべ、こう言い放った。

「ごめんごめん。この問題、答えがないんだよ。どんなにがんばっても無理」

いや、ガーンときましたね。ショックでしたね。死ぬほど考えた問題に、まさか答えがないなんて‥‥‥。


でも僕は、よくも答えが出ない問題を出しやがったな、という気持ちはなくて、むしろいい意味でガーンときました。いい意味でショックでした。単純そうに見える問題なのに答えが出ないという部分に感動を覚えたのですよ。学校で出される問題には必ず答えがあって、解き方もある程度決まっている。なのに、この世には答えの出ない数学の問題がある。この三日月の問題によって、僕はさらに数学の奥深さ、おもしろさを知ったのでした。


高校受験も終了し、僕はその塾を卒業して高校でさらに数学の勉強をしました。中学ではやらなかった高度なことも学んでゆきます。三角関数や微分積分、ベクトルや二次以上の方程式。そうやって新しい知識を習得した上で、ときどきあの問題を思い出して解こうとしてみるのですが、とうとう現在に至るまで答えは分かっていません。まあ、それは当然で、おそらく数学的に「答えが出ない」ということが証明されているのでしょう。


そうして大学受験を終え、文学部に入学した僕。しかしときおりあの問題のことを思い出して、誰かと当時の感動を分かち合って欲しいと思うのです。答えがあって当然という思考をぶち壊して、数学の神秘に触れてもらいたい。そんな思いがふつふつと湧いてきて、先日、サークルの先輩たちに、この問題を出題してみたのです。手近にあった紙に図を描き、こう言いました。

「この問題が解けたら、お昼おごりますよ」

もちろん、答えがでない問題だということは伏せます。答えが出るはずだと思って考えて考えて考えてから秘密を明かされた方が感動が大きいと思ったからです。あの日の僕のように。


図形を眺めながら試行錯誤する先輩たち数人。なかには工学部の先輩もいました。あるいは文系なのに数学好きという女の先輩もいました。

「わたし文系を選んじゃったけど、本当は理系にした方がよかったかもっていうくらい数学好きなんだ」

なんて言いながら紙を図や数式で埋めてゆく先輩。がんばれがんばれ、悩め悩め、その先にはさらなる数学の魅力が隠されているのだから。


文系の僕から突如出題された謎の面積問題。先輩らが四苦八苦しながら考えて1時間程経ったでしょうか。当然のごとく、誰も答えを出せません。そこで用事があってこの場を離れなければならない先輩がいたので、とうとう僕がその秘密を暴露しました。

「すみません、実はこの問題、答えが出ないんですよ。いくらがんばっても無理なんです」

さあ感動しろ! 数学の神秘の前に涙しろ! こんな常識破りな問題があるという事実にショックを受けるがよい! そう思いつつ、あの日の森先生のように秘密をドカンと暴露。以下、先輩たちの反応。

「なんだよ」
「騙された」
「チッ‥‥‥」
「わたし、数学が嫌いになった」

それから数日、誰も目を合わせてくれなくなった。
posted by グレエ at 21:24 | Comment(4) | TrackBack(0) | edit


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ワオー【昔の話】

大学受験。その過酷な戦争で生き残るため、僕はある予備校に1年間通っていました。ここに名前を書いたとしても、おそらく誰もわからないような小さな予備校だったのですが、そこには駿台や代ゼミに負けないくらい濃い先生方がいました。


その筆頭が数学の稲垣先生でした。彼はその予備校の数学講師の代表格で、数学の教材はほとんどその人がつくっていたし、数学のいちばんハイレベルなクラスを担当していたという重要人物なんですが、その言動や行動がありえなかった。うん、誇張でなしに、あれはありえない。


まずね、第一印象が精神障害者なんですよね。どうみても精神障害者。こういう言い方はどうかと思うのだけれど、でも明らかにそうなんですよ。絶対ふつうじゃない、というのはもう見た瞬間にわかるの。目線の動かし方から歩き方まで、どう見ても普通ではない。はじめて数学の授業に出て稲垣先生を見たときはもうそのまま帰ろうかと思ったもの。


ただ、実際に授業をはじめると、やはりそこはプロなんですよね。解説はすごく分かりやすいし、惚れ惚れするような解き方をしてみせてくれる。途中、ややこしい計算があったりしてもほとんど間違えないし、ごくまれにミスすることがあってもすぐに気づく。


先生は、どうやら回答の手順や数字までほぼ暗記していたらしいのですよ。だから違う数字が出てきちゃうと「あれ?」と思うらしい。

「ワオー! 今のはきみたちが気づくかどうか試したんだよぅ!」

甲高い声でそう言ってすぐに訂正する。その記憶力はもはや常人を越えていて、やっぱり脳みそがちょっと変なんじゃないかと思いました。


さて、さきほどの先生の発言に「ワオー!」という奇声が含まれていたのに気づいたと思いますが、これは先生の口癖でした。計算ミスすると
「ワオー!」、黒板に描いた円が歪むと「ワオー!」、何の脈絡もなく「ワオー!」、そんだけワオーがあれば星一つくらいなら壊せるんじゃないかってくらいにワオーの連発。マシンガン・ワオーかってくらいワオーの連発。こちらとしては予備校にいるんだか精神病院にいるんだかわかりゃしない。ある友人の調べによると、一回の授業で使用されたワオーは80回を超えたそうです。


他にも、稲垣先生にはいくつもの名言がありました。


生徒がかんたんな公式を忘れていたりなど、凡ミスをしたときに必ず言う一言。
「破門だよぅ!」

意外と知られていない効率のいい問題の解き方を教えるとき。
「これは秘伝だよぅ。幻の解法だよぅ、ふへへへ」

生徒が先生をからかうようなことを言ったとき。
「お前ら、ちょっと、表へ出ろ!」(ドナルドみたいな感じで)

手をホワイトボードの角にぶつけたとき。
「うえーん、痛いよぅ。お母さーん!」


これがいい年したおっさんの発言ですからね。正気の沙汰とは思えない。予備校にいるはずなのに精神病院にいるような気がしたわ。


そんな稲垣先生が、夏に「セミプロ複素数」という講義を担当したんですよ。短期間で集中的に特定の分野をやるというものだったんですけど、そのはじめの講義で信じられないものを見た。


「ワオー! この講義はセミプロだからね、セミプロ。みーんみーんのセミプロだからね!」

とかいいながら、ホワイトボードに黒のペンをすらすらと走らせるのですよ。するとあらふしぎ、みるみるうちにリアルなセミが描かれてゆくではないですか。

「ここの部分が長いのがオスなんだよー! ワオー!」

いやいや、あなたなんでそんなに昆虫に詳しいんですか? というか、絵がうますぎるんじゃないですか? と思ってると、あっという間に完成したセミの横にもう一匹セミを描き始めました。

「これはお腹の方からみたセミだよー! ワオー!」

いやいや、何も見ずにセミを裏側から描けるって、セミの裏側を描けるって、どんだけ天才ですかって話です。


なんかもう、植木でオブジェをつくるシザーハンズみたいな動きでペンを走らせて、あっという間に2匹のセミが完成しました。こっちが「ワオー!」って言いそうになったわ。セミプロと昆虫のセミは関係ないだとか、そんなツッコミもする気なくなったからな。


病的な数学マニアで、なおかつ絵がそれこそセミプロ並みにうまいっていうだけでワオーとか言っちゃいそうなんだけど、その後、2匹のセミを背にして、なんか知らんが先生が昔の夏の思い出を語り始めたんですよね。

「小学生のころ女の子にセミの抜け殻見せたらすごく気に入ってくれてね。だからもっと喜ばせてあげようと思って、次の日バケツ一杯セミの抜け殻集めてその子に渡したら泣いちゃってさぁ。困ったよぉ」

いや、そりゃ泣くよ。むしろ悪質な嫌がらせじゃねぇか。



見た目は精神障害者、しかし中身は優れた数学教師であり、絵がうまいなんて一面もある。そんなすばらしい先生だったのだけれど、どうやら中身も多少狂っていたようです。いまでも夏になってセミの鳴き声を聞くと、先生のあの奇声が心の中で響いてくるかのようです。ワオー、ワオー、と。



ちなみに、稲垣先生にはネットの趣味もあって、よく自分の名前や口癖で検索をしていたようでした。ときどき、巨大掲示板に書き込まれた自分の噂をネタにしたりしてました。うむ、この日記も、もしかしたら先生に発見されるかもしれない。
posted by グレエ at 21:33 | Comment(0) | TrackBack(0) | edit


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モテるタイプ【昔の話】

もう今日こそは言わせてもらう。何がなんでも言わせてもらう。たとえ憲兵に逮捕されて銃殺刑に処せられようとも、ジャンボ飛行機が部屋に突っ込んでこようとも言わせてもらいますよ。

「クールな男がモテるなんて嘘だ!」


ちょっと思い出してみてください、ドラマやアニメで女の子にモテる男のことを。すると、たいていクールで二枚目な男が思い浮かぶと思います。頭がよくて、でもなにげにスポーツもできちゃったりして、そっけないふりして実はやさしい。そんな男が典型的なモテる男として描かれることが多いと思うんですよ。


実生活においてもそういう傾向はあって、女の子たちも「うるさい男は嫌」とか「やさしい人がいい」とか口々に言うわけです。それで、まるで少女漫画に出てくるようなクールな男像をうっとりと語ったりする。うむ、反吐が出るわ。


いったい彼女らが何を考えてそんなことを言うのか、まったく理解しかねる。だって、実際女性がつきあうのって、そんな理想像とは遥か対局にある男ばかりなのですよ。180度違う男ばかりなのですよ。下手したらいちばんモテないタイプとしてドラマやアニメで描かれるような男ばかりなのですよ。くそっ!



僕がまだ地元にいた頃、近所にあるきれいなお姉さんが住んでいました。お姉さんが19歳くらいで、僕が高校生くらいだったと思います。彼女は中学時代から同学年の男子の憧れの的だったようで、その評判は3つほども年下の僕の耳にまで入ってくるほどでした。実際、何度かそのお姉さんをみたとき、サラサラの黒髪が美しい、実に清楚な女性だという印象を受けました。


うん、彼女の魅力なら、男どもがこぞって夢中になるのも頷ける。きっと将来は頭がよくてやさしくて、それこそ王子様のような男と結婚して、ドラマみたいな幸せいっぱいの家庭を築くのだろうな、と思っていましたところ、お姉さん、20歳前後で結婚。この晩婚の時代に、高校出てすぐ結婚。おいおいお姉さん、何をそんなに生き急いでいるんだい、と思うのだけれども、容赦なく結婚。


友人から聞いた噂によると、どうやら彼女の結婚相手というのは地元でも有名なほどの不良だということでした。いやいや、どう考えてもおかしい。釣り合ってない。というか同じ秤で測定することさえ神に唾する行為ではないかというほどに理解不能。


地元でも有名な美人、一昔前ならナントカ小町とか言われそうなべっぴんさんが、シャコ短の車で音楽をズンドコ鳴らして夜中にドライブしてそうな不良と結婚。お互いに彼女のいなかった僕と友人は、夕暮れの道ばたで語り合いました。

「なんで不良がモテるんだろうな」と僕。
「うん、ほんと、何がいいのか分かんないよ」
「世の中狂ってる」

疑問と嫉妬の気持ちが入り交じり、切なさがこみ上げてきます。そうして、次に友人が言い放った一言。

「おれさ、こういうことが起こると、生きてるのが空しくなるんだよな」

ああ! 僕は、この悲しみの結晶のようなつぶやきを、生涯、忘れることはない。


まあ何が言いたいのかってゆうと、要するに現実にモテる男ってのは、しばしば語られる理想的な男性像とは似ても似つかないじゃないかってことです。他にも僕が高校生の頃に女の子にモテていた男というのは、不良であったり暴力的な男ばかりだったのですよ。


現実に目を向けてみると、世間で一般的に語られているような、クールな男はモテるという論は明白に誤っており、口数の多いうるさいキャラやワルぶっている男がモテているということが分かります。


別に、それが悪いというわけではありません。人の好みは様々ですから。しかし一般論と現実がひどく乖離しているという驚くべき事実、それを皆さんに分かって欲しかったという、それだけのことなのです。


ああ、それにしても、なんでだろう? 事実を書いているだけなのに、なんだか胸が痛くなって、涙がこぼれてきちゃった。そして、高校生の頃、あの夕暮れの道ばた、友人がつぶやいた一言が不意に蘇ってきてしまった‥‥‥。


「おれさ、こういうことが起こると、生きてるのが空しくなるんだよな」
posted by グレエ at 21:34 | Comment(2) | TrackBack(0) | edit


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エロ本の山【昔の話】

2浪目に入居していた予備校の寮、そこはありえないほどネタに満ちた異空間でした。


北海道から沖縄まで、文字通り全国から浪人生が集まってきて、一ひとつ屋根の下で受験生活をともにしたのですが、その寮の生徒は一癖も二癖もある連中ばかり。毎日がカルチャーショックの連続でした。


その寮というのは僕の出身県である埼玉にありました。駿台や代ゼミのような大手ではなく、認知度の極めて低い弱小予備校。2浪目を迎えようとしていた僕がその予備校のパンフレットを見たとき、無料特訓寮という文字が目に飛び込んできました。


当時、実家で生活することが嫌になってきていた僕は、すぐさまその寮に入れるよう申込書を書き、ダッシュで予備校に送付しました。大手予備校の寮だと月々数万から数十万という大金が必要で、とてもじゃないが僕の家庭の経済状況では入れてもらえない。けれど、この寮なら食費と電気代など、最低限の料金だけで入れてもらえる。まるで夢のような寮の存在を知って、2浪したというのに鼻歌を歌いださんばかりの勢いで喜んでいました。


業界初と言われる無料特訓寮。一応知ってはいたのですが、なんか、部屋が部屋じゃないの。もはや部屋とは呼べない。広さはわずか2畳半。ベッドと机で完全に埋まる。出入り口もドアではなくてビニールのカーテンで、空調の関係で天井付近はすべての部屋が繋がっています。分かりやすく言うと、広いワンフロアを壁で仕切っただけ。そんな蜂の巣みたいな寮で集団生活がはじまりました。


寮のメンバーは思い出すだけで吹き出すような濃い面々ばかりだったのですが、その中でもひと際異彩を放つ松島くんという男がいました。


彼は一見するとクールなイケメンで、ちょっとエミネムに似ているインターナショナルな顔をしていたのですが、中身はユーモアとエロの塊。彼のギャグセンスとエロスは文字通り筆舌に尽くしがたいもので、到底ここで僕が彼のすごさを伝えることなど不可能なほどでした。予備校の先生や寮の仲間のモノマネ、あるいはウィットに富んだ冗談で毎日みんなを笑わせる松島くん。当然、下ネタも容赦ない。

「あれ、どこいったんだろ」

ある日、僕は共同の冷蔵庫に入れておいたサラダのドレッシングがないことに気づきました。そこに松島くんがあらわれた。

「どうしたの、グレエくん?」
「ドレッシングがなくてさ」
「どういうやつ?」
「白いやつ」
「じゃあ、おれが代わりに白い液体出してあげるよ」

それだけは勘弁して欲しい。


で、彼は真性のエロでしたから、部屋の中がエロ本ですごいことになっているのですよ。寮はテレビもパソコンも禁止でしたから、エロツールとしてはもう本しかないわけなんですが、彼の部屋はエロ本でいっぱいだった。


何度か部屋を覗いてみたことがあるのですが、部屋の隅に箱が置いてあって、そこに整然とエロ本が並べられているのですよ。変に几帳面な所があるのか、きっちりと箱の中にエロ本が整列している。ここはエロ本専門の図書館ですか? というくらいに品揃え豊富なエロ本が陳列されているの。そして壁にはヌードのポスター。明らかに浪人生が勉強に集中できる部屋ではない。


松島くんは冗談もおもしろいですし、いつもみんなの中心にいてひたすら周囲を笑わせる、というキャラクターだったのですが、彼とは対照的にほとんど他人としゃべらない植村という人物がいました。


さきほどは書かなかったのですが、寮の部屋は建物の2階と4階にありまして、僕や松島くんがいた蜂の巣みたいな無料の寮は2階だけ、4階にはそれとは別に有料の部屋がありました。そちらは10畳もある立派な部屋。しかし2階の住人が自然と仲よくなるのに比べ、4階の住人はやや孤立しがちな傾向がありました。植村くんはその典型で、僕などは1年おなじ建物にいてしゃべったのが2、3回。彼の生態系は謎に包まれていました。


植村くんはやや小太りで、頭髪は激しい天然パーマ、朝見ると爆発した志村けんですか? と尋ねたくなるような外見でした。こう言っては悪いですけど、見た目は秋葉系。


そんな彼と、夕食時に交わしたわずかな会話がこんなものだった。

「植村くんて、何か趣味あるの?」
「まあ、アニメを観るくらいかな」
「どんなアニメ?」

そう尋ねた瞬間ですよ。聞いたこともないようなアニメの名前が出てくる出てくる。これがあの寡黙な植村くんか? と疑いたくなるほどの勢いでしゃべり出して、あのアニメの主題歌がいいとか、あの声優はすばらしいだとか、さながら火砕流のごとくしゃべりまくる。走り出した彼を止めることなんて、もう誰にもできやしない、ってな勢いでしゃべりまくる。


なんか押しちゃいけないボタンを押しちゃった気分で呆然とする僕。彼は夢中でしゃべり続けるのだけれど、僕がわかったのはエヴァンゲリオンという単語だけでした。植村くん、見た目だけでなく、中身も真性の秋葉系だった。


ある日、そんな植村くんも住んでいる4階に、他の友人に用があって登って行ったのですよ。友人の部屋にいく途中に植村くんの部屋があったのですが、タイミングよく彼がその部屋から出てきました。僕は無難におはようと挨拶して通り過ぎようとしたのですが、その時すごいものを見てしまった。


彼が出てきてドアが開いていたため部屋の中が見えたのですが、おびただしい数のエロ本が部屋中に散乱してたの。部屋の散らかり方も半端じゃないのですが、圧巻なのがそのエロ本の数。下手したら3桁の大台に乗っているんじゃないかっていうくらいあった。


上述の松島くんの部屋のエロ本にも驚きましたが、もうその比ではない。松島くんの部屋のエロ本を美しい峰を描く富士山だとするなら、植村くんの部屋のエロ本は登山家を容赦なく阻むエベレスト。下手に足を踏み入れたらクレバスに落ちるようにエロ本に飲み込まれて遭難しちゃうんじゃないかっていうレベルだった。僕は廊下から彼のありえない部屋を見てしまい、唖然として声さえ出ませんでした。


1年間の寮生活を終え、植村くんがどの大学に進学したのか僕は知りません。しかし日本のどこかで、彼もまた大学生活を謳歌しているのではないかと思います。おびただしい数のアニメとエロ本に囲まれながら。
posted by グレエ at 21:35 | Comment(0) | TrackBack(0) | edit


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2006年08月15日 Tue

おすすめサイト【随時更新記事】

最終更新:2006.10/11

ここでは僕のお気に入りのサイトを紹介しています。いずれも選び抜かれた良質サイトばかりですので、楽しんでもらえるのではないかと思います。


Numeri
patoさんが書いている超長文のテキストサイト。有名なサイトですので知っている人も多いでしょう。日常の出来事や債権回収業者と対決した話など、さまざまな話を書かれています。僕がこのサイトを知ったのは4月くらいですが、それからは影響受けまくりです。過去ログがかなり多いので、長く楽しめるはずです。更新は週1程度。


偉人ブログ
パンティ田村さんがさまざまな偉人を演じてブログを書いているサイト。すでに更新は終了していますが、未読の人はぜひ過去ログを読んでみてください。文章はそれほど長くなく、すっきりまとまっています。ちなみに、このサイトにコメントしたら、だいぶ多くの人が僕のブログに来てくれました。田村さんありがとう。


ブラジャー
上記の偉人ブログのパンティ田村さんがさいきんはじめたブログ。偉人ブログ同様、すっきりまとまった文章と切れのいいオチはすばらしい。偉人ブログでは毎回数十、時には三桁のコメントがついていたのに、こちらのブログはコメントがほとんどない。まだ訪問者が少ないようです。


女子大生の非エログ的美技に酔っちゃいな!(笑)
女子大生の茜(あかね)さんが書くちょっとエロいブログ。同性の人に恋をしているようで、妄想がほとばしっています。一人でアダルトビデオコーナーに足を踏み入れたり、下ネタを連発した音声を配信していたりと、ただものではない雰囲気がぷんぷんします。


d.j.ペリカンマッチ
僕と同い年で大阪在住の松岡カフェチョコラー太さんが書いている正統派テキストサイト。細かな表現やストーリーが予期しないツボを刺激してくれます。この人のセンスにはただただ脱帽するばかりです。


SHADOW GALLERY
牛男爵アイスさんが書いている、というより書いていた雑文サイト。雑文の他に短い小説もいくつか置いてあります。雑文執筆時の年齢が20代後半なのにもかかわらず無職であったり、やたら音楽やゲームに詳しかったりと謎の多い男爵です。ちなみに牛男爵は「ぎゅうだんしゃく」と読むのか「うしだんしゃく」と読むのかも謎です。2004.4/1で更新は止まっています。


どれも激しくおすすめですのでどうぞ遊びに行ってみてください。
posted by グレエ at 01:19 | Comment(2) | TrackBack(0) | edit


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ほんとうにあった怖い話【日記】

夏といえば、怖い話ですね。僕は幽霊だとか心霊現象だとか、そういった類のものはまったく信じない科学的な人間なのですが、今年の夏はひと味違いました。怖いものなんか何もないと思っていたのに、あったのですよ、怖い話が。以下に綴るのは、実家に帰省していたときに、実際に経験したことです。


実家に戻って2日後、僕はビデオを借りにいこうと思い立ちました。先日、まだアパートにいたとき、ビデオデッキがないのにビデオを借りてみれずに返す、という悲しいハプニングがあったのですが、実家にはビデオデッキがある。ということで最寄りのレンタルビデオショップに向かいました。ちなみに、最寄りのレンタルビデオショップまで自転車で1時間半ほどかかります。


炎天下のなか、ちっちゃい折りたたみ式の自転車で出発。これが、数々の恐怖体験のはじまりだなんて、このときの僕は思ってもみませんでした。


家を出発して3分ほどすると、近所の家の庭先に何やらふわふわとした白っぽい物体があることに気づきました。よく見てみると、昼寝をしている猫です。

「にゃんにゃー! にゃんにゃー! にゃんにゃー!!」

猫好きの僕としては素通りするわけにはいきません。さあ、僕のかわいい子猫ちゃん、喉をなでさせておくれ、ちょっとお兄さんに体を触らせておくれ。


ガン付け猫.jpg



ガンつけられた。さっそく一つ、恐怖体験をしてしまいました。いや、ありゃ怖いよ。下手したら指とか食いちぎられるよ。



気を取り直して、目的地をめざします。しかしさきほどの猫のもとを去ってからまた3分ほどのところで、何やら茶色い物体があることに気づきました。まあ、見た瞬間に牛だって分かったんですけどね。僕の地元は絵に描いたような田舎でして、いたるところに牛がいるのです。わーい牛だ牛だー、とウキウキして近づいてみました。


突進してくる牛.jpg


突進してこようとしている。視線は僕にロックオン、右前足はダッシュするための準備をしている。あの角で刺されたら確実に死ぬ。僕は必死でその場から逃走しました。



えっと、そろそろ目的を忘れてしまいそうですが、僕が向かっているのはあくまでレンタルビデオショップ。猫や牛にかまっている暇はない。歩道のない道を、汗を流しながら、車の排気ガスを吸い込みながら先を急ぎます。


自転車で行く.jpg



しっかし暑い。毎年毎年記録的な暑さとか言ってるけど、今年は特別に暑い気がする。なんでこんなに体が暑いのだろう。ま、1時間以上自転車こいでるからだろうけど。


目的地へ向かう途中、2つほど気になるものを見つけました。


赤い人.jpg


赤い人出たー! パンツ一丁で全身真っ赤な、等身大の人形です。誰が何のためにこれを制作し飾ってあるのか理解に苦しみます。


さて、次は道沿いで発見したスナック。


スナックあそこ.jpg


なんか卑猥だ。「あそこ行こうよ」といった場合の「あそこ」をそのまま店名にしたのは分かります。でも、僕の思考回路がエロいからかも知れないけど、やっぱね、ほら、あそこなんて言われたら、えっ、アソコ!? って思ってしまうではないですか。


もう少し年を取ったらスナックあそこに入ってみたい、と思いましたが、無情にもテナント募集中と書かれた紙が貼られていました。残念。



そんなこんなでようやく目的地であるレンタルビデオショップに到着。1時間半ものあいだ炎天下で自転車をこいでいた瀕死の僕にとってクーラーの効いた店内はオアシスそのもの。ゆっくりとビデオやDVDを選びます。


まず欠かせないのが『ふたりのロッテ』という作品。先日、ビデオデッキがないのに借りてしまったビデオです。この作品はやはりDVD版は置いていなくて、ビデオしかありませんでした。しかし、ビデオデッキならあるもんね、という余裕の表情でビデオをつかむ僕。不安の色をまったく浮かべず、クールにビデオを取る僕。かっこいい僕。近くに年頃の美しい女性がいたのですが、たぶん僕に惚れてたと思う。


「あっ」

同時にビデオに手を伸ばし、触れ合う手と手。僕と彼女は見ず知らずの他人だった。

「すいません。どうぞ」
「いえ、私はかまいませんから。どうぞ」

遠慮がちにいう彼女とは、なんだかはじめて会った気がしなかった。自分でもふしぎだけれど、この人とは何か運命のようなものを感じる。夏の暑さが、僕の心を狂わせたのかもしれない。

「あの、よかったら、いっしょに観ませんか? このビデオ」
「‥‥‥‥‥‥」

(やっぱ、そうだよな。いきなり見ず知らずの男にそんなこと言われたって、OKするはずないじゃないか。何言ってるんだおれ。ほんと、バカだよな‥‥‥)

「いいですよ。いっしょに観ましょ」
「えっ!」

意外だった。会ったばかりなのに、こんな申し出を受け入れてくれるなんて。でも、いま思うと、あのときの真琴は、僕と同じように、夏の暑さで心を狂わされていたのだろう。


真琴のアパートは、お店から歩いて10分のところにあった。介護士として老人ホームに勤めている彼女は、その8畳の部屋で一人暮らし。

「どうぞ、あがって。少しちらかってるけど」

女の子の部屋にひとりで来るなんて、生まれてはじめてだった。少し緊張。視線のやり場にさえ困ってしまう。

「じゃ、ビデオ、観ましょうか」
「うん」

小さな画面に映し出される『ふたりのロッテ』。おなじところで笑い、おなじところで感動し、映画がハッピーエンドを迎える頃には、僕たちの心はひとつになっていた。


「いい、映画だったね」
「うん」
「じゃ、おれはこれで」

立ち上がって、玄関へ向かう。映画は終わって、もうここにいる理由はなくなったんだ。僕はもう帰らなければならない。ドアノブに手をかける。

「待って」
「どうしたの?」
「いかないで欲しい‥‥‥」

窓から、夕陽が射し込んで、彼女の顔を紅く照らしている。僕は、ドアノブから手を離し、彼女の小さな肩を、両手でそっと抱く。僕を見つめる彼女の視線は、あまりにもまっすぐで、頭がくらくらする。そして、彼女の唇にキス! 熱いキス! ディープキス! なんてことはまったくありませんでした。



『ふたりのロッテ』と、他2本の作品を持って貸し出しカウンターへ。並んでいるうちにカードを出しておくというイギリス紳士顔負けの気遣いまでしてました。

「どうぞー」

女性の店員にそう言われ、ビデオとDVD、それにツタヤカードを差し出す僕。すると、何があったのか分からないけれど、店員の表情が明らかに曇る。

「‥‥‥‥‥‥が違います」
「えっ?」

店員が何か言っているのですが、声が小さすぎて聞き取れません。しかし、明らかに不機嫌な様子。

「カードが違います」
「えっ?」

もう一度言ってくれたので今度は聞き取れたのですが、それにしても事情が飲み込めない。僕のカードは京都でつくったものですが、ツタヤカードは全国で使用できるはずです。おかしい。何かがおかしい。

「カードが違います」

人間はここまで冷徹になれるものか? と驚いてしまうほどの冷たさで繰り返す店員。なんか、長年連れ添った妻にバレてないと思ってた浮気を指摘され、「別れてください」と言われた中年男性みたいな気持ちになった。怖い。疑問を通り越して、ただ怖いという感情に心を支配されたそのときだった。

「ここはファミリーブックですので」

その店、ツタヤじゃなかった


どうしたらこんなにボケられるのか自分でも疑問なんですが、ファミリーブックとツタヤをごっちゃにしていました。なんか、自分でも信じられないのだけれど、おなじ店舗だと思っていた。たまにブタゴリラとジャイアンを混同している人がいますけど、そんな感じになってた。ちょっと違うけど。


その後、「カードって、いまつくれるんですか?」「はい」「お金かかります?」「はい」「いくらですか?」「500円です」「あ、じゃあ、いいです」「はい」という絶対零度くらい冷たい対応をされました。


あと、帰るときにビデオの棚の方をみたら、真琴の隣に、真っ黒に日焼けした背の高い男がいて、いっしょにビデオを選んでました。女ってほんと怖い。
posted by グレエ at 20:10 | Comment(0) | TrackBack(0) | edit


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お盆【日記】

お帰りなさいませ、ご先祖様。


ということで、お盆です。メイド喫茶ならぬ冥土から、しばしのあいだご先祖様たちが現世に戻ってくるという非常にファンタジックなイベントです。僕もおととい、13日まで実家にいましたので、このイベントにちょっとだけ参加しました。


その日、リビングで狂ったようにニンテンドーDSのテトリスをやっていました。21の青年が実家でごろごろしてテトリスに熱中している光景はニートそのもの。なんだか悲壮感さえ漂い、お母さんごめんなさい、こんな僕を許して、と言いたくなってしまいそうなんですが、あまりのおもしろさにテトリスに熱中していました。

「ほら、グレエ。お盆様迎えに行くよ」

はて、お盆様? お盆様を迎えに行く?


僕はあまり仏教に興味がないので詳しくは分かりませんが、そういえば毎年この時期になるとお墓参りにいっていた気がする。どうせ暇ですし、せめて家の行事ぐらいは参加してニートとの違いを見せつけてやろうと思い、祖母と母とともにお墓へ向かいました。


お墓では祖母が墓をきれいに掃除し、母がお花をさし、僕がその光景をぼーっと見ていました。

「グレエ、お線香あげて」

やった、僕にも手伝えることがあるんだ! と、歓喜のあまりお線香を7本ぐらいあげました。よし、仕事した。これでもうニートじゃない!

「グレエ、そっちのゲンさんのとこにもやっといて」

OK、グランマ。引き続き働き者の僕はゲンさんのお墓にもお線香をあげときました。そのゲンさんという人がいったいうちの家族とどういう関係なのか皆目分からないのですが、とりあえずゲンさんにもあげておきました。お帰りなさいゲンさん。


一通りお墓参りが済んで家に戻ろうかというとき、母がお墓の近くで何やら新聞紙と何かの木にライターで火をつけはじめました。そして、燃える新聞紙と木からモクモクと煙が。どうやらこの煙を目印に、ご先祖様たちは現世に戻ってくるようです。ま、カーナビみたいなものですね。


自宅の前まで来ると、またしても母が新聞紙と何かの木に火をつけました。どうやらこの煙を目印に、ご先祖様たちは現世に戻ってくるようです。ま、EZナビウォークみたいなものですね。


ふぅ、これでようやくご先祖様たちは道に迷うこともなく家に戻って来れるはずです。小さい頃いっしょに遊んでくれたひいおじいちゃんやおじいちゃん、あと、僕が生まれる前に亡くなったひいおばあちゃんやずっと昔のご先祖様たちも来てくれるはず。あんまりいっぱい来ると家に入りきらないんじゃないかな、大丈夫かな? なんて思いながら、やおらニンテンドーDSのスイッチを入れようとしたときでした。

「グレエ。ちょっとお寺さんいってきて」

祖母がそういい、封筒と風呂敷に包んだお金を手渡してきました。あれ、さっきの儀式でご先祖様たちは帰ってくるはずなのに、なぜまたお寺なんぞに? と疑問に思うのですが、まあ宗教的なアレだろうと思い、ニートではない働き者の僕は素直に引き受けました。


お寺にゆく途中、玄関先にキュウリやらナスに割り箸を4本さして動物みたいにしたものが置いてある家がありましたが、それもご先祖様を迎えるための宗教的なアレなのでしょう。あとで父に聞いたところによると、ご先祖様がそれに乗って帰ってくるらしいです。煙で誘導するだけより待遇がよいですね。ま、タクシーみたいなものなのでしょう。


お寺に着くと、門が開いていて中に入れるようになっていましたので、とりあえず中に入ります。するとお寺のおばさんが「ご苦労さま」と言って迎えてくれました。

「ごめんなさいね。いまお昼を食べに行ってるから、少し待っててくれる?」

どうやらお坊さんは食事中らしい。おばさんがお茶を出してくれたので、ありがたくいただいて待つことにしました。


それにしても、お寺ってのはおもしろい。これまでも何度か来たことはあるのだけれど、改めて見回してみると興味深いものばかりです。


僕が入った部屋の中央正面には荘厳な華の飾りがありましてね、いかにも仏教ですという空気を醸し出しています。その前にはお坊さんが座るためのちょっと豪華な座布団が置かれ、右前には巨大な木魚、左前には巨大なチーンって鳴る仏壇によくあるアレがありました。なんかもう、これでもかってくらいに仏教チック。キリスト教主義の大学に通ってるなんてことがバレたら殺されちゃうんじゃないかと心配になりながらお坊さんを待っていました。


5分か10分ほど待つとお待ちかね、お坊さんの登場。

「すいません。お待たせしちゃて」

と、やけに腰が低い感じで登場。


実は数年前までは、このお坊さんのお父さんがまだ現役で活躍していたのですが、現在は完全に世代交代を行われていたようで、息子の方が出てきました。息子といってももう50代の人なんですが、その人が出てきました。


僕が待っているあいだ、知らないおばあさんも来ていたのですが、まずそちらへ向かうお坊さん。おばあさんは風呂敷に包んであったお金と重箱みたいなものをお坊さんに差し出しています。なるほど、持ってきたお金はこのお坊さんに手渡せばいいわけだな、と納得し、次にこちらに来たお坊さんにお金を手渡しました。


さあ、これで帰れるのかと思いきや、そのお婆さんがやおら立ち上がりまして、なにやらお焼香というのをやっていました。なるほど、次はお焼香をすればいいんだな、と納得し、お婆さんが戻ってから僕もお焼香をしました。ここで何をするかはもう、このおばあさん一人にかかっている。


さあ、今度こそ帰れるのかと思いきや、そのお婆さんが動かないのですよ。ご先祖様を迎えにきたのに、逆にあっちに行っちゃったんじゃないかってくらい動かないのですよ。このときの僕にとってはこのおばあさんが世界のすべて。僕の、世界の中心は、君だ、ってくらいにそのおばあさんが頼りですから、僕も動けない。すると、

「イーヤーラキハーマーヤージーランダーエーターカッテタダーロー‥‥‥」

ってな感じでお坊さんがお経を読みはじめました。いったいどういった意味でお盆にお経を読むのか知りませんが、エミネム顔負けの饒舌さでリリックをライムして木魚を叩くお坊さんはかなりクールでした。ときどきチーンって鳴らすときなんて、ほんと、自分が女ならそのお坊さんを放っとかなかったと思う、お坊さんハゲだけど。


で、本来ならそのままお経を聞き終えて帰ればそれでめでたしめでたしとなるはずだったのですが、お経の途中、僕はあまりの驚きに自分の目を疑いました。


いや、白装束をまとったじいさんが現れたのですよ。


真っ白な浴衣のような服をまとったじいさん、僕が小学生のころからじいさんだったじいさんが音もなく入ってきたの。このじいさん、先ほど書いた引退したお坊さんなのですが、もしかしたらもう亡くなったのかと思っていたから死ぬほどびっくりしました。お盆だからあの世から帰ってきたのかな、と思ったのですが、お寺のおばさんやお坊さんはびっくりした様子もありませんし、よく見たらちゃんと足がついていました。


それからの1日、ご先祖様を家に迎えたはずなのにご先祖様の気配はまるで感じなかったのですが、それでもしばらく見かけなかったよぼよぼのじいさんに、しかも「たった今棺桶から出てきました!」みたいな格好をしたじいさんに出会えただけで、お盆を十分満喫できたと思います。
posted by グレエ at 23:57 | Comment(2) | TrackBack(0) | edit


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2006年08月16日 Wed

吉野家事変【日記】

「あっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」


きょう、なんとなく二条城を観光してみようと京都市内へと出かけたのですが、昼時でお腹が空いたので京都駅の吉野家に入店したときのことです。店内には東南アジア系と思われる外国人の男性が2人、おそらく30代から40代くらいの男性2人がいました。僕が店員のお姉さんに「並」とだけ告げたそのとき、その男性2人が食事を終えてお金を払っていたのですが、そこからがすごかった。

「ありがとうございましたー」と店員さん。すると、
「アリガト、ゴザイマシター」と男性。しかも、超笑顔。

うん、ここまでなら心温まる国際交流、さすが観光都市京都、ということで収まったのですが、彼らはそれだけでは終わりませんでした。

「スマーイル! スマーイル!」」

カメラを構え、緑色のシャツを着た男性が店員のお姉さんに言います。

「スマーイル! スマーイル!」
「え、ちょ、ちょっと‥‥‥」

お姉さん、明らかに迷惑そう。


お姉さんは嫌がっているにも関わらず、笑顔のベストショットを要求し続ける緑色のシャツ。そしてさらに追い打ちをかけるように、灰色のシャツを着たもう一人の東南アジア系の男性が冒頭に書いたように「あっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」と笑い続けている。うん、何かが狂ってきている。


スマイルどころか、明らかに迷惑そうな顔をするお姉さん。カメラを構える緑シャツ。隣で笑い声というか奇声を上げる灰色シャツ。彼らとお姉さんのちょうど真ん中で豚丼の並を食べる僕。そこはもはや、いつもの吉野家ではなくなっていました。

パシャ。

撮った、撮りやがった。いったいなぜそれほどまで店員のお姉さんを写真に撮りたがるのか理解できないのですが、結局撮ってました。しかも、店員のお姉さんとカメラの間にいた僕もたぶん写った。

「あっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
「あっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」

写真を撮ったことがなぜそれほどおもしろいのか理解できないのですが、笑い声というか奇声を発する東南アジア系の男性2人。もう、ど、う、に、も、と、ま、ら、な、い、ってほどに止まらなくなった2人。もう彼らを止める術はありません。


すぐ出て行けばいいものを、またしても、

「アリガト、ゴザイマシター」

と言う2人。

「ありがとうございました」

と、浮かない顔で言う店員のお姉さん。

「あっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
「あっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」

笑う2人。

「あっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
「あっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」

ずっとその彼らの状況を見守っていた僕にさえ、笑いのきっかけが分からない。若い娘さんなんかのことを「箸が転げてもおかしい年頃」なんて言ったりしますが、彼らはあの歳にして若い娘の心を持っているのだろうか?


しばし店内で笑い声というか奇声を発したあと、もう満足したのか、店の外に出て行こうとして出入り口のボタンに指を当てていました。しかし、緑シャツが出ようとしたそのドアは、使用中止になっていたドアでした。だから何度指を押し当ててもドアは開かないのですよ。そしてそれに気づいた緑シャツが、

「あっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」

つられた灰色シャツも、

「あっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」

うん、どう控えめに捉えても、彼らはバカだと思いました。


異常な空間のなかで豚丼を食べ終えた僕。さて、予想だにしないハプニングを経験してしまったけれど、腹ごしらえも済んだことだし、目的地の二条城へゴー。途中、京都駅前の眼鏡屋でしばらく眼鏡を物色したり、書店をぶらついたり、旅行用品などを購入したりしてゆっくりと二条城へ向かいました。


午後4時30分、二条城到着。しかし、そこには非情な文字が。


「本日は午後4時で公開が終了いたしました」


どう控えめに捉えても、僕はバカだと思いました。
posted by グレエ at 23:48 | Comment(4) | TrackBack(0) | edit


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2006年08月17日 Thu

絶滅危惧種と言わないで【日記】

僕はいつだって少数派だった。


小さな村の、小さな中学校。一学年に17人しか生徒がいなくて、部活動もたったの3つしか存在していなかった。野球部、バレー部、そして音楽部。大半の生徒が野球部とバレー部に入部するなか、音楽部に入部したのは、僕の学年ではたった3人だった。

「男のくせになんで音楽部なんか入ってんだよ」
「女みたいだな」

野球部に入ったクラスメイトからは、ときどきそんな風にからかわれた。


高校進学。多くのクラスメイトが何人かでおなじ高校を受験するなか、僕はたったひとりだった。友達同士でおなじ学校に進学できるのはたしかに羨ましかったし、ひとりで遠くの高校へ通うのは不安だったけれど、僕は自由に生きたかったんだ。

「他人に流されちゃいけない。自分の道を進んで行けばいい、たとえひとりぼっちでも」


そして大学進学。田舎ではあっても、東京まで2時間とかからない場所に住んでいたのに、僕は京都の大学へゆくことを選んだ。地元の友人も、高校のクラスメイトも、ほとんどが関東の大学へ進学したけれど、僕はたとえ少数派になったとしても、心細かったとしても、自由に、心の赴く場所へ行きたかったんだ。



そんな僕だから、もちろんパソコン選びでも大衆に迎合したりなんてしない。自分がよいと思ったもの、よいと感じたものを選ぶ。そして、清潔感漂う真っ白なボディ、暖かみのある画面、そしてリンゴのマークに魅かれて、現在愛用しているiBookを選んだ。マッキントッシュ。そう、マックである。

「マックって一回も触ったことないんだよね」
「え、クリックのボタン一つしかないの?」
「マインスイーパもソリティアもないの?」
「やっぱウィンドウズでしょ」

そんなかずかずの罵倒にも負けず、僕はマックを愛用している。なにがウィンドウズだ。なにが窓だ。そんなクリックのボタンが2つもついてる機種には興味ないね。IE? なにそれ? そんなブラウザあるの? こっちはSafariだよ、Safari。いま時代はSafariなんよ。と言いつつマックを愛用している。


普及率という名の権力にひれ伏し、身も心もマイクロソフトに売り払ってしまった大衆たち。彼らはとにかくマックをバカにしがちだが、それは大きな間違いである。はっきり言おう。マックはウィンドウズより優れている。だいたい、マウスというものを先に採用したのはマックの方だし、パソコンに斬新なデザインを取り入れたのもマックが先。機能だって負けていないはずだ。



あ、そうそう。動画を無料でみられるGyaOというサイトが流行っているらしく、先日、人に勧められてGyaOに入会したのですよ。入会さえ済ませればあとはニュースもアニメも見放題ということだったのですが、いざ入会して再生ボタンを押しても一向に画面が動かない。ダウンロード中なのかな、と思ってしばらく待ってみても、何の変化も現れない。変な胸騒ぎを感じた僕はさっそくGoogleに「GyaO」や「マック」といった単語を入力し、検索してみました。すると、あるサイトにこんな文が。


Gyaoは録画できないようにDRMという技術を使っています。
最初にメールを登録した人は知らないうちに認証されて、意識せずに見られるようになります。
MACの人。
このDRMという技術に対応したプレーヤーがないので見ることができません。
対応のプレーヤーを待つしかありません。



また、別のサイトではもっとストレートに、


現在、GyaOの動画はMac OS Xでは見ることができません



という、死の宣告とも取れる文字が書かれていました。



あー、マックってほんと不便だよなぁ。
posted by グレエ at 21:54 | Comment(9) | TrackBack(0) | edit


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2006年08月23日 Wed

ドイツ寒い【日記】

ドイツも今は夏だと言っていた人全員の頬をビンタしてやりたい。一列に並べて端から端までダッシュしてビンタしてやりたい。どこが夏だ。太陽出てなかったら晩秋じゃねぇか。


さて、今回はネットカフェから久々の更新となります。当初の予定では、ここで数日分の過去の日記も一気にアップするはずだったのですが、USBフラッシュメモリの使用は別料金になるとのこと。まあ、たいした値段ではないので払ってもいいのですが、面倒だしあんまり書いてないし書いてある日記もくそみたいなものしかないので、その日記はお蔵入りにしようと思います。



帰国は9月18日なのですが、それまでにまた更新するかどうか微妙になってきました。ネットカフェだとなんか気が散ってゆっくりと書く気になれないのですよ。隣のインド人っぽい子どもがさっきからコーヒーだらだらこぼしながらクリック連打してるし。
posted by グレエ at 01:58 | Comment(4) | TrackBack(0) | edit


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2006年08月29日 Tue

これあいのり?【日記】

彼女をつくるためにドイツまできたのに、一向にできる気配がありません。いっしょに参加したメンバーは、女性が14人、男が僕を含めて5人なのだから、理論的には3人、運が悪くても2人は彼女ができるはずなのですが、現在のところ1人も彼女ができません。どうなってんだドイツ。このままじゃラブワゴンからおりれない。ラブワゴンとか乗ってないけど。


あ、そうそう。いっしょにドイツにきたメンバーに野口さんという人がいるのですよ。ほぼ半年計画で親しくなろうと努力してきた、同じ学科の野口さん。実は彼女もドイツにきてます。話しかければそこそこしゃべってくれるようにはなったのですが、野口さんの方から話しかけてくれるまでにはいたっていません。この前ある湖にメンバー全員ででかけたときに野口さんと僕を含めた4人で写真を撮ろうとしたら逃げられ、そのあとツーショットを撮ろうとしたらまた逃げられました。どうなってんだ野口。くやしいから不意打ちで変な顔撮ってやった。


posted by グレエ at 02:59 | Comment(2) | TrackBack(0) | edit


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