2006年09月24日 Sun

ツンデレ吉野屋【日記】

みなさんは吉野家をご存知だろうか? アメリカ産牛肉の輸入禁止にともない、レギュラーでの牛丼の販売ができなくなったのに、未だに牛丼の看板を掲げているあの滑稽極まりないファーストフード店である。僕はそんなお茶目な吉野家が大好きだ。


先日、京都駅近くの無印良品にメガネを新調しにいった。このメガネ店員はおれの女、このメガネ店員はおれの女、このメガネ店員は。と心のなかで念じながら調整のために僕のメガネをかけたりはずしたりして顔を覗き込んでくるメガネ店員とひとときの疑似恋愛を楽しんだあと、僕は遊び疲れた子猫が親猫のもとに帰るように吉野家へと向かった。


そうしていつものように恥じらいを含んだ声で「並」と注文し、豚丼とおしんこを食べた。おいしかった。そうしてお金を払って吉野家をあとにした。しかしなんだろう? この虚無感は。僕は言語化できないニヒリズム、すなわち、心にぽっかりと空いた巨大な深淵を前にしてたじろがずにはいられなかった。


何かが、足りない。


吉野家。そのどこに欠点があるというのか。味も、値段も、そしてはやさも、どれを取っても文句のつけようがないではないか。唯一欠点があるとすれば、それは情報戦略のセコさくらいではないか。ではいったい何が僕の心にこのような世紀末的な虚無を生じせしめたのか。


ハッ!


駅の改札を抜けて電車に乗ろうとした、まさにそのときであった。僕はとうとうその謎を解明した。否。言い直そう。神が、僕の心に、啓示を与えたもうたのである。その答えとは、店員との疑似恋愛であった。そう、吉野家にくる前の無印良品では、メガネの店員と疑似恋愛を楽しむことができた。サービス業の基本は親切な接客であり、店員と客が異性の場合は少なからず恋愛の要素が入り込むのが常ではなかろうか。例えば洋服。「何をお探しですか?」「あ、ちょっとジャケットを」「これなんていかがですか? とてもお似合いですよ」「そうかなぁ」などというやりとりは明らかに恋する男女のメタファーである。メタファー? ごめん。よく意味分からずに書いた。


要するに、吉野家は店員と客とがあまりにドライなのである。そこにあるのはただただ丼と金銭の交換だけで、疑似恋愛の差し挟まれる余地がほとんどない。その点ではコンビニ以下である。吉野家はサービスの分野で変革を遂げねば、これからの時代に対応できないであろう。恋愛という分野において今もっとも熱いのがツンデレである。それを踏まえ、僕は提案したい。ツンデレ吉野家を!


ある夜、オレンジの看板の牛丼家に吸い込まれるように入ってゆく一人の青年がいた。何度も何度も通い詰めた吉野家。しかしこの日の吉野家はいつもと何かが違っていた。席に座り店員が来るのを待つ青年。

「ん」

ガタッ。店員が勢いよく目の前に冷たいお茶を置く。コップからこぼれたお茶が青年の右手にかかる。

「ほら、何ぼーっとしてんのよ。注文は?」
「え!? あ、えと、豚丼並で」
「はいよ、豚野郎」

耳を疑う青年。

「おあと並一丁っ!」

威勢のいい声がカウンターから調理場へ響く。一分後。

「ん」

青年の前に、またしても乱暴に豚丼を置く店員。

「あ、どうも」

その青年の一言に、店員の顔色が豹変する。

「べべべ別に、あんたのために持ってきたんじゃないんだからね!」
「え!?」
「あたしはただ、なんとなくあんたが豚みたいに見えたから、目の前に豚丼置いたらおもしろそうだなって思っただけなんだからね!」
「いや、ちょっと意味が‥‥‥」
「意味がなんなのよ。言いたいことがあるならはっきりさいごまで言い切ったらどうなの? このウジ虫野郎! そんなだからいつまで経っても年齢と彼女いない暦がイコールなのよ。それに26歳でフリーターってね、あんた社会をナメてんじゃないの? ちゃんとしたとこ就職してはやく親を安心させてあげなさいよ。縛られるのが嫌? 甘えてんじゃないわよこの豚虫が! 社会に出るのが怖いだけなんでしょう?」

青年、すでに涙目である。

「それに、一人暮らしも7年目だってのに、ろくに自炊もできず吉野家に通い詰めなんて情けないったらないわ。だからそんなどっかの係長みたいなぶよぶよのお腹になっちゃうのよ。よっ、フリーター係長!」

店員の罵声を浴びながら最後の一口を飲み込む青年。もはや豚丼の味など分からなくなっている。

「お会計を、お願いします‥‥‥」
「ほら、330円」

ここで、直前まで息巻いていた店員の態度が豹変する。マニュアル通り、ツンからデレへ。

「あの、さっきはごめん。あたし、ちょっと言い過ぎたみたい。悪い癖なの、あたし、嫌なことがあると、つい身近な人にあたっちゃう。ほんとに、ごめんね。嘘だから。さっき言ったこと、嘘だから。気にしないで。あたし、あなたのこと応援してる。ぜったい、成功できる人だって、信じてるから。だから、また、会いにきて、くれるよね?」
「二度と来るか!」

吉野家は倒産である。
posted by グレエ at 04:10 | Comment(6) | TrackBack(0) | edit


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