2006年07月16日 Sun

新・桃太郎【フィクション】

あるところに、お爺さんとお婆さんがおりました。お爺さんは山に芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に、智子は病院で陣痛を感じておりました。


お爺さんが最新式の芝刈り機TX-66(HONDA製)でギュインギュインと芝を刈っているそのとき、お婆さんが洗濯をしていた川の上流からどんぶらこどんぶらことバレーボールほどもある大きな桃が流れてきました。お婆さんは桃を小脇に抱えて家に戻りました。


夜、お婆さんが桃を包丁で切ってお爺さんとふたりで食べていると、お爺さんの携帯が一通のメールを受信しました。送信元は病院にいる智子でした。

「無事、元気な男の子が生まれました」

お爺さんはお婆さんに「TUTAYAで借りたDVD、今日で返却期限だから返してくる」と言い残し、急いで病院へと駆けつけました。

「智子っ!」
「あなた、奥さんを放っておいて大丈夫なの?」
「そんな心配はいい。よくがんばったな」

こうして、お爺さんと愛人の智子のあいだに隠し子ができたのでした。お爺さんは、その子が桃を食べているときに生まれてきたことにちなんで、その子を桃太郎と名付けました。


それから17年、桃太郎はネコまっしぐらといった勢いで不良への道を突き進んでいました。女手一つで一生懸命育てた智子の愛情はほんものでしたが、やはり父親の不在に寂しさを感じていたのでしょう、桃太郎の心は荒みきっておりました。


高校には週に1度か2度顔をだすくらいで、その他の日は街の喫茶店やゲームセンターで仲間とツルんでぶらぶらする桃太郎。悪そうなヤツはだいたい友達で、盗んだバイクで走り出して留置場に放り込まれることさえありました。それでも檻の中でラジカセを聞きながらジャンプを読む桃太郎にまったく反省の色はありません。


そんな生活をしていた桃太郎は、高校一年生という異例の若さで地元暴走族の頭に登り詰めておりました。総勢30を数える単車の群れ、その先頭には改造を施した愛車CB400にまたがる桃太郎。特攻服の背中には「日本一」の刺繍が施されていました。


町外れの公園の駐車場で連夜のように行われる族の集会、しかしその夜はいつもとは違う、ただならぬ空気が流れておりました。いかつい面々の中心で桃太郎が口を開きます。

「もう知っている者もいると思うが、ここ最近、隣町の族レッド・デモンがおれらのシマを荒らしてるらしい」

ざわめく族のメンバーたち。夜の空気に緊張が走る。

「いいか、このままヤツらに好き勝手やらしとくわけにはいかねぇ。シマ荒らされたからには黙ってるわけにはいかねぇんだ。これはおれらのメンツに関わる問題だ。よって明日の夜、ヤツらの集会現場を襲撃する」


次の日の夜、鉄パイプやチェーンを手に集結する桃太郎ら族のメンバーたち。迎う先はレッド・デモンがいつも集会に用いている隣町の波止場、通称鬼ヶ島。爆音を轟かせ、桃太郎たちは夜の街を疾走してゆきました。


波止場で集会を開いていたレッド・デモンたちを、30からのヘッドライトが照らします。何事かと色めき立つ強面の不良たち。単車から降りて一人でそこへ歩み寄る桃太郎、それを迎えるレッド・デモン族長。

「隣町の桃太郎さんがこんなところまでいらっしゃるとは、何の用だい?」

両暴走族のメンバーが固唾をのんで族長同士の対話を見つめる。

「何の用できたかは、あんたが一番よく知ってるんじゃないか? 胸に手ぇ当ててよく考えてみな」
「さあ、何のことだかさっぱり‥‥‥」
「いまワビ入れれば、半殺しで済ませてやるぜ」
「は? 変な頭して調子にのってんじゃねぇよ」

その瞬間、桃太郎の目の色が変わり、目にもとまらぬ早さのパンチが相手の腹にのめり込み、にぶい音が闇夜に響き渡りました。桃太郎は自慢のリーゼントを馬鹿にされると後先考えずにキレるという性格だったのです。

「うぉー!殺っちまえー!」

桃太郎の一撃が戦いの狼煙となり、血で血を洗う戦いがはじまりました。それはもはや喧嘩という生易しいものではなく、戦争のような激しさを呈していました。乾(いぬい)は釘バットで次々と敵をなぎ倒し、勝(まさる)は鉄パイプで相手をめった打ちにし、由紀治(ゆきじ)はメリケンサックをはめた拳で顔面を殴打していました。


総勢60を越える不良どもが入り乱れての大騒ぎ。と、突如、その現場に黒塗りのベンツが現れ、中からスーツに身を包んだ数人の男が出てきました。一瞬にして手を止め、静まりかえる暴走族たち。


彼らはこの辺り一帯を仕切っている暴力団の組員でした。レッド・デモンとは保護と人材の供給という形で蜜月の関係にある暴力団でしたが、黒スーツのなかのリーダー格らしき男がつかつかと歩み寄ってドスのきいた声で言いました。

「おい、このお祭り騒ぎはいったいなんなんだ?」
「す、すみません。やつらが急に攻めてきたもので‥‥‥」

萎縮して謝罪するレッド・デモンの族長。

「どうやら若ぇもんの教育がなっとらんかたようじゃのぅ。おまえらが他所の族のシマに出入りして好き放題やっとるっちゅう噂は聞いとるんじゃ」

青ざめるデモン族長。

「相手の頭はどちらかな? できれば今回だけはこいつら許してやってくれんか?」
「あんたらが誰だか知らないが、これはおれたちの問題だ。邪魔すんじゃねぇよジジィ」

ぷっつんきてる桃太郎は、相手が暴力団だろうがなんだろうがおかまいなしです。しかし、桃太郎の顔を見たとき、組員の顔色が変わりました。

「おまえは‥‥‥桃太郎じゃないか?」

リーダー格であった組員はあのお爺さん、つまり桃太郎の実の父親でした。

「なんであんたがおれのことを知ってるんだ?」
「桃太郎、まさかお前とこんな形で会うことになろうとは‥‥‥」

お爺さんは桃太郎を自分とおなじ、汚れた世界に引き込みたくない、まっとうな人生を送ってほしいという願いから、生涯父親として名乗り出ないと決めていたのです。しかしなんという数奇な運命! 死んでも会うことはないと決心していた実の子桃太郎が、目の前で返り血を浴びて自分を睨みつけているのです。智子から年に一度送られてくる写真の桃太郎とは正反対の荒んだ表情に、お爺さんは悲しみをこらえきれませんでした。

「桃太郎。実は、わしはお前の実の父親なんじゃよ」
「は? ふざけたこと言ってんじゃねぇぞボケジジィ! さっさと帰りな!」
「これを見てくれ」

そう言って、お爺さんはサイフから一枚の写真を取り出しました。そこに写っていたのは、幸せそうに微笑む若かりし日の智子とお爺さんでした。

「そ、そんなはずはない。おれのおやじは、おれが生まれる前に交通事故で死んだはず‥‥‥」
「悪かったな桃太郎。しかし分かってくれ、お前をわしみたいな人間にしたくなかったんじゃ。ほんとうに、悪かった」
「お、おやじ‥‥‥」
「桃太郎‥‥‥」

生まれてはじめて出会った桃太郎とお爺さんは、抱き合って涙を流しました。この感動の再開に心を打たれたギャラリーたちも涙を禁じ得ませんでした。まさに鬼の目にも涙。

「桃太郎、おまえはまだ若い。今からでも十分やり直せる」


その夜から半年、桃太郎は暴走族を抜け、高校も退学し、渡米を決意しました。部屋でトランクに荷物をまとめる桃太郎は、「日本一」の刺繍が入った特攻服を手に取り、荒んでいた頃の自分を思い出していました。

(日本一、か。おれはなんて小さな人間だったんだろう)

桃太郎の目から大粒の涙がこぼれ、日本一の刺繍の上にポタリと落ちる。そのとき、母親が部屋のドアをガチャッと開ける音がしました。急いで袖で目をこする桃太郎。

「あんた、アメリカ行ってどうするつもり?」
「おれ、本気でやってみたいことがあるんだ」
「なにを?」
「おれの気持ちを、音楽で表現してみたい」
「ま、何するにしても、中途半端で戻ってくるなんてことないようにね。挫折してうちに帰ってきても、入れてあげないんだから‥‥‥」
「ひどいな、母さん」
「寂しく、なるわね」
「毎週手紙書くよ」

そうして桃太郎は、大きな野望を胸に秘め、単身アメリカへと渡ったのでした。





























エミネム(桃太郎).jpg


桃太郎、のちのエミネムである。
posted by グレエ at 00:22 | Comment(7) | TrackBack(0) | edit


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この記事へのコメント
さぞかしサザエさんのようなリーゼントだったのでしょうなっ!
Posted by sizmal at 2006年07月16日 00:54
すごい、感動!8mile見ればよかった。
Posted by なも〜 at 2006年07月16日 01:03
エミネムは日本人だったのか!!

髪型をけなされてキレるとあったから
東方丈助かと思いました

いやー、いいオチでした、最高www

Posted by ばんぶ at 2006年07月16日 22:57
そ、そうなん!?初めて知った・・・
Posted by 光 at 2006年07月16日 23:53
>sizmalさん
昔雪の日に車で立ち往生していたときに助けてくれた不良に憧れてリーゼントにしたようです。

>なも〜さん
8mileはなかなかおすすめの映画ですよ。エミネムの声がめっちゃきれいです。

>ばんぶさん
丈助と承太郎がまじった感じで書いてあります。むしろお爺さんと智子が外国人で、桃太郎も実は外国人あったというのもアリ‥‥‥? (細かいことは気にしません)

>光さん
これが真実です。
Posted by グレエ at 2006年07月17日 14:43
コメントありがとうございますm(__)m
靴下くん、今日プチ家出から帰ってきました。
桃太郎ってエミネムなんでしたっけ?
わたしが聞いたのは
桃太郎=金太郎でした。
これで続編期待してます。

とムチャぶりをしてみます。
また来てください。
Posted by フルパワー at 2006年07月17日 19:57
コメントありがとうございます。

桃太郎=金太郎ですか、初耳です。しかしそれってなかなかつなげづらそうですねぇ‥‥‥。次は浦島太郎かなんかを元にして書こうかな、なんて思ってます。
Posted by グレエ at 2006年07月17日 22:05
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