2006年08月14日 Mon

エロ本の山【昔の話】

2浪目に入居していた予備校の寮、そこはありえないほどネタに満ちた異空間でした。


北海道から沖縄まで、文字通り全国から浪人生が集まってきて、一ひとつ屋根の下で受験生活をともにしたのですが、その寮の生徒は一癖も二癖もある連中ばかり。毎日がカルチャーショックの連続でした。


その寮というのは僕の出身県である埼玉にありました。駿台や代ゼミのような大手ではなく、認知度の極めて低い弱小予備校。2浪目を迎えようとしていた僕がその予備校のパンフレットを見たとき、無料特訓寮という文字が目に飛び込んできました。


当時、実家で生活することが嫌になってきていた僕は、すぐさまその寮に入れるよう申込書を書き、ダッシュで予備校に送付しました。大手予備校の寮だと月々数万から数十万という大金が必要で、とてもじゃないが僕の家庭の経済状況では入れてもらえない。けれど、この寮なら食費と電気代など、最低限の料金だけで入れてもらえる。まるで夢のような寮の存在を知って、2浪したというのに鼻歌を歌いださんばかりの勢いで喜んでいました。


業界初と言われる無料特訓寮。一応知ってはいたのですが、なんか、部屋が部屋じゃないの。もはや部屋とは呼べない。広さはわずか2畳半。ベッドと机で完全に埋まる。出入り口もドアではなくてビニールのカーテンで、空調の関係で天井付近はすべての部屋が繋がっています。分かりやすく言うと、広いワンフロアを壁で仕切っただけ。そんな蜂の巣みたいな寮で集団生活がはじまりました。


寮のメンバーは思い出すだけで吹き出すような濃い面々ばかりだったのですが、その中でもひと際異彩を放つ松島くんという男がいました。


彼は一見するとクールなイケメンで、ちょっとエミネムに似ているインターナショナルな顔をしていたのですが、中身はユーモアとエロの塊。彼のギャグセンスとエロスは文字通り筆舌に尽くしがたいもので、到底ここで僕が彼のすごさを伝えることなど不可能なほどでした。予備校の先生や寮の仲間のモノマネ、あるいはウィットに富んだ冗談で毎日みんなを笑わせる松島くん。当然、下ネタも容赦ない。

「あれ、どこいったんだろ」

ある日、僕は共同の冷蔵庫に入れておいたサラダのドレッシングがないことに気づきました。そこに松島くんがあらわれた。

「どうしたの、グレエくん?」
「ドレッシングがなくてさ」
「どういうやつ?」
「白いやつ」
「じゃあ、おれが代わりに白い液体出してあげるよ」

それだけは勘弁して欲しい。


で、彼は真性のエロでしたから、部屋の中がエロ本ですごいことになっているのですよ。寮はテレビもパソコンも禁止でしたから、エロツールとしてはもう本しかないわけなんですが、彼の部屋はエロ本でいっぱいだった。


何度か部屋を覗いてみたことがあるのですが、部屋の隅に箱が置いてあって、そこに整然とエロ本が並べられているのですよ。変に几帳面な所があるのか、きっちりと箱の中にエロ本が整列している。ここはエロ本専門の図書館ですか? というくらいに品揃え豊富なエロ本が陳列されているの。そして壁にはヌードのポスター。明らかに浪人生が勉強に集中できる部屋ではない。


松島くんは冗談もおもしろいですし、いつもみんなの中心にいてひたすら周囲を笑わせる、というキャラクターだったのですが、彼とは対照的にほとんど他人としゃべらない植村という人物がいました。


さきほどは書かなかったのですが、寮の部屋は建物の2階と4階にありまして、僕や松島くんがいた蜂の巣みたいな無料の寮は2階だけ、4階にはそれとは別に有料の部屋がありました。そちらは10畳もある立派な部屋。しかし2階の住人が自然と仲よくなるのに比べ、4階の住人はやや孤立しがちな傾向がありました。植村くんはその典型で、僕などは1年おなじ建物にいてしゃべったのが2、3回。彼の生態系は謎に包まれていました。


植村くんはやや小太りで、頭髪は激しい天然パーマ、朝見ると爆発した志村けんですか? と尋ねたくなるような外見でした。こう言っては悪いですけど、見た目は秋葉系。


そんな彼と、夕食時に交わしたわずかな会話がこんなものだった。

「植村くんて、何か趣味あるの?」
「まあ、アニメを観るくらいかな」
「どんなアニメ?」

そう尋ねた瞬間ですよ。聞いたこともないようなアニメの名前が出てくる出てくる。これがあの寡黙な植村くんか? と疑いたくなるほどの勢いでしゃべり出して、あのアニメの主題歌がいいとか、あの声優はすばらしいだとか、さながら火砕流のごとくしゃべりまくる。走り出した彼を止めることなんて、もう誰にもできやしない、ってな勢いでしゃべりまくる。


なんか押しちゃいけないボタンを押しちゃった気分で呆然とする僕。彼は夢中でしゃべり続けるのだけれど、僕がわかったのはエヴァンゲリオンという単語だけでした。植村くん、見た目だけでなく、中身も真性の秋葉系だった。


ある日、そんな植村くんも住んでいる4階に、他の友人に用があって登って行ったのですよ。友人の部屋にいく途中に植村くんの部屋があったのですが、タイミングよく彼がその部屋から出てきました。僕は無難におはようと挨拶して通り過ぎようとしたのですが、その時すごいものを見てしまった。


彼が出てきてドアが開いていたため部屋の中が見えたのですが、おびただしい数のエロ本が部屋中に散乱してたの。部屋の散らかり方も半端じゃないのですが、圧巻なのがそのエロ本の数。下手したら3桁の大台に乗っているんじゃないかっていうくらいあった。


上述の松島くんの部屋のエロ本にも驚きましたが、もうその比ではない。松島くんの部屋のエロ本を美しい峰を描く富士山だとするなら、植村くんの部屋のエロ本は登山家を容赦なく阻むエベレスト。下手に足を踏み入れたらクレバスに落ちるようにエロ本に飲み込まれて遭難しちゃうんじゃないかっていうレベルだった。僕は廊下から彼のありえない部屋を見てしまい、唖然として声さえ出ませんでした。


1年間の寮生活を終え、植村くんがどの大学に進学したのか僕は知りません。しかし日本のどこかで、彼もまた大学生活を謳歌しているのではないかと思います。おびただしい数のアニメとエロ本に囲まれながら。
posted by グレエ at 21:35 | Comment(0) | TrackBack(0) | edit


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