2006年10月16日 Mon

語源について【日記】

はじめは何気ない気持ちだった。それはなんでもないことだった。僕は何も考えず、ただその退屈な授業を削除したんだ。すると、他にも退屈で役に立たない授業があるように思えてきて、それも消した。削除削除削除‥‥‥。いつのまにか時間割表は空白だらけになり、月曜日には2コマ、火曜日には1コマ、そうして水木金がまた2コマ、土日は休日になった。僕はありあまるほどの時間の洪水に飲み込まれてしまったんだ。


この時間に、僕はなにをすべきなのだろう?


僕は考えた。この若い時代の貴重な時間を有効に使う方法を考えた。そうして、出てきた答えは「語学の勉強をする」だった。文系の学生にとって、語学は必須であり最重要事項だ。それを抜きにして学生生活は語れないと言ってもいい。僕はこれまでやってきた英語とドイツ語に加え、ラテン語にも本腰を入れて取り組もうと決意したのだった。


僕が隣に座ってる塩田さんにいいとこ見せようとしてラテン語をがんばろうとしてるんじゃないかって?まさか!僕がそんな不純な動機で動くような男に見えるかい?僕は純粋な学問的興味からこの科目をやろうとしているんだ。くだらないことを言わないでくれ。


そう、言語というものは、ほんとうにおもしろい。それはまるで独立したひとつの宇宙のようですらある。日本語という宇宙、英語という宇宙、ドイツ語という宇宙、ラテン語という宇宙。その小宇宙を旅していると、ときに目から鱗が落ちるような発見もある。そのもっともわかりやすい例が語源に関する話だ。


たとえばアルファベット(alphabet)という単語がある。知っての通り、英語のAからZのことである。このアルファベットの語源は実はギリシャ語から来ている。数学をやっている人はご存知かもしれないが、ギリシャ語のアルファベットはαβではじまる。アルファ、ベータ、である。これを続けて発音するとアルファベータであり、これが転じてアルファベットという文字の要素、すなわちAからZを意味する単語になったと言われている。


あるいは特定の人物の名前が一般的な名詞へと転ずることもあり、それはたとえばカエサルやサドといった単語である。カエサル・シーザーはローマ帝国の将軍であったが、彼の名前は現在、皇帝を意味するようになった。サディズムという単語はフランスの作家であるサド侯爵(Donatien Alphonse Francois de Sade)に由来し、彼の倒錯的な小説『ジュスティーヌ』『悪徳の栄え』によってその名が広まり一般名詞として使われるようになったのである。


さてここで問題にしたいのはパソコンという単語の語源だ。僕たちがふだん何気なく口にするこの単語。いったいこの単語はいかなる歴史的な変遷を経ていまこうして存在しているのだろうか?

「パーソナル・コンピューター、つまり個人用の電子計算機を表す英語を略したんでしょ」

簡単にそう言ってのける者がいそうだがそれは間違いである。実は、このパソコンという単語の起源はまったく別のところにある。


さかのぼること500年、すなわち西暦1500年、そこにあの男はいた。後にパソコンを発明することになる青年、クリストファー・ロビーニである。当時18歳だったロビーニは現在イタリアと呼ばれている地方でピザ屋の見習いをやっていた。時給は日本円にしてわずか700円、しかし宅配と調理はめまぐるしい忙しさであり、何より料金体系の複雑さが暗算の苦手だったロビーニを毎日悩ませていた。

ジリリリリリリーンッ!

「はい、こちらピザハットです。ご注文をどうぞ」
「えっとね、シーフードとコーンマヨのハーフ・アンド・ハーフ」
「はい」
「それと韓国風ピザとアメリカンのハーフ・アンド・ハーフ。以上で」
「はい、かしこまりました。ご注文を確認させていただきます。シーフードとコーンマヨのハーフ・アンド・ハーフと韓国風ピザとアメリカンのハーフ・アンド・ハーフでよろしかったですか?」
「はい」
「そうしますと、お会計の方が‥‥‥」
「あ、そうだ。半額クーポン券があるんで、それ使わせてください」
「あ、はい。かしこまりました。そうしますと、お会計の方が‥‥‥」

(シーフードが1200円でコーンマヨが1100円。それぞれハーフだから半額にして600円と550円。んでさらに半額クーポンで半分にして足すと‥‥‥ぷすぷす‥‥‥)

ロビーニの頭から煙が立ち上る、そして、

ドーンッ!

「あ、あの、なんかすごい音がしましたけど大丈夫ですか?」
「計算不能計算不能‥‥‥」
「もしもし!?もしもし!?」


こうして思考回路がショートしてばかりのロビーニはいつも客からの注文を不意にしていたため、親方からどやされるのだった。お前はほんとうに使えない奴だ、と。


涙に暮れるロビーニ。これまで何度おなじミスを繰り返しただろう?ふたつの数字を半分の半分にして足すことさえできない。いや、それくらいなら、調子のいいときならこなせることもある。しかしここに会員だけがもらえる2割引クーポンだとかお得なMセットメニューが加わるととてもじゃないが彼の頭脳で処理することは不可能だ。彼は自分のピザ職人としての将来に不安を抱いていた。


ロビーニ。彼は一見気弱で平凡に見える青年であったが、発想の転換に関しては長けていた。彼が自分の計算能力の限界をかんじたとき、そこで諦めて違う職種を探そうとはせず、計算ができないならそれを機械にさせればいいのではないかと考えた。彼は、それを家族や親方に話せば嘲笑されるであろうことを見越し、狭い自室で密かにその機械の開発に取りかかった。


「おいロビーニ!また手が傷だらけじゃないか?見習い3年目だってのにまだナイフの使い方もわからないのかい?」

おなじピザ屋の見習い仲間がロビーニを冷やかす。しかしそれはナイフによる傷ではなく、慣れない機械の制作で負った傷であった。


そうして明るいうちはピザ屋での仕事、深夜には機械の制作という過酷な生活が続いて6ヶ月が経過したとき、ロビーニは自室で小さな灰色の箱を前にして歓喜の雄叫びをあげた。

「ついに、ついに完成した!」

そう、パソコンが発明された瞬間である。名もない中世のピザ職人により、現代社会で必須アイテムとなったパソコンはつくられたのだ。ロビーニが制作したパソコンはいま使われているそれと比べればやや性能は低いが、ワードやエクセルはもちろん、快適にネットサーフィンを楽しむのにも不自由しない優れた機種であった。


だが、ここで一つの悲劇がロビーニを襲う。それは彼にとってたった一つの誤算であった。そう、この当時、電力が実用化されていなかったのだ!


どんなに優れたパソコンがあろうと、電気がなければそれはただの箱。不幸にも、ロビーニはそれを用いて注文の料金を計算することもできず、また通信技術もまったく発達していなかったためネットでブログをつけることもかなわなかった。


パソコンの発明、そして大いなる失望からわずか10日後、彼はピザ屋の電話口で頭から煙を吹き出し、立ったまま絶命していたという。受話器を握ったまま硬直した彼の手には、開発時に負った無数の傷に絆創膏が貼られていた。


残された人々はロビーニの部屋にポツンと置かれた小さな箱と、その周辺に散らばったトランジスタやハンダゴテを発見した。

「いったいロビーニは何をつくろうとしていたのだろう?」

それは誰にもわからないことだった。今となっては誰もロビーニが制作したものが何なのかを知ることはできない。しかし、彼が必死になって、己のすべてを注いでこの灰色の小さな箱をつくろうとしていたことだけはわかる。冷たくなった彼の手に貼られた無数の絆創膏が、それを証明していた。この事実にちなんで、人々はその正体不明の小さな箱をバンソーコーと呼ぶようになった。


その後、数々の戦争、あるいは政治的な変動を経てパソコンはイタリアからアメリカへと伝わり、数百年の後にビルゲイツ少年の手に渡ることとなる。彼がその箱を手にしたとき(これはある単語が別の国へ伝わるときにしばしば起こることであるが)、元来のバンソーコーという語が訛って、それはパソコンと呼ばれるようになっていた。ここではじめて、パソコンは現在の名を与えられたことになる。ビルゲイツ少年がこの箱に興味を示し、数年の研究によってその構造を明らかにし実用化へと導いたことは周知の事実である。


このように、僕たちがふだん当たり前のように口にしている単語でも、調べれば調べるほど新たな事実が出てくるのである。言語というのは、ほんとうにおもしろい。


さて、少し話が長くなりすぎた。僕はそろそろラテン語の勉強をはじめることにしよう。そんでぜったい塩田さんにいいとこ見せてやるんだもんね!
posted by グレエ at 19:17 | Comment(5) | TrackBack(0) | edit


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この記事へのコメント
アルファベットの語源とか初めて知りました。ためになります。
しかし、ロビーニ。彼は一体何者なんですか?
電気もないのに思考回路がショートしたり。

あと、ブログを改名しました。
しかしあまりに意味不明なので近々また改名するかもしれません。
Posted by フルゥ at 2006年10月16日 21:01
1500年代といえば大航海時代ですね。
そのころには電話もあったのか…へぇー!勉強になりますわ。
Posted by Risky at 2006年10月16日 21:50
なるほど、パソコンの名にはそんなに深い由来があったんですね。感動しました。
ロビーニ本人の持つ機械のような要素も心を打つものがあります。

とりあえず、この事実を一刻も早く塩田さんに自慢すべきではないでしょうか?

・・・すいません。適当に言ってみただけです。反省してます。
Posted by たこ at 2006年10月16日 23:43
>フルゥさん
ロビーニ、彼は歴史の闇のなかへ消えて行った天才、というべきでしょう。アルファベットの語源は僕も3日前に知りました。

>Riskyさん
ぜひこのブログで得た知識を大学受験で発揮してください。必ず落ちます。

>たこさん
やっほーい!明日はラテン語の授業だぜー!うっほほーい!
Posted by グレエ at 2006年10月17日 19:05
妄想は良いから単位取りにいけよw
Posted by あほうか at 2010年04月11日 09:38
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